去られ岩 (さられいわ)
ある年の冬、岩崎村のお花という女性が隣村に嫁いだ。
その夜、婚礼に参加した二人の村人が岩崎へ帰るため、お花が嫁入りで通った道を引き返し歩いていた。
その途中、どこからか赤子の泣き声が聞こえてきた。二人は道の横に聳える大岩を見上げた。
すると大岩は動き出し、煙のように辺りに拡がると、その中から泣く赤子をあやす若い女性が現れた。
「今日はお花がこの道を通り隣村へ嫁いで行きました。私もかつて、この道を通って隣村へ嫁いで行った者です」
女はそう前置きし、怯える二人に語り始めた。
昔、ある村に、おしまという娘がいた。
おしまは隣村の家に嫁ぐことになり、婚礼の日、この大岩の前の道を通って行った。
やがて子供も生まれ、おしまは夫と共に幸せな日々を過ごしていた。
ところがある日、郷里から父の急病が舞い込んできた。その夜、おしま夫妻は赤子を背負って見舞いに向かった。
そしてこの大岩の前を通り抜けようとした時、背中の赤子が突然泣き出した。
おしまは何とか赤子を泣き止まさせたが、ふと気づくと夫の姿がどこにもない。
仕方なく郷里まで行って夫の到着を待ったが、彼が戻ってくることはなかった。
それが原因でおしまは嫁ぎ先と不縁になり、郷里へ引き取られることになった。
郷里に戻った後も夫の安否を心配し続け、やがて病を罹って死んでしまった。その後を追うように赤子も死んでしまった。
死後、おしまと赤子の魂は怨念となり、この大岩に宿ってしまった。それ以来、二人の亡魂は岩の上から道行く人々を眺めているのだという。
気がつくと、二人は雪の中に蹲っていた。おしまと赤子の姿はどこにもない。
二人は慌ててその場から逃げ去った。この話は誰にも言わなかった。
二ヶ月後、隣村に嫁いだお花は、夫が急死したため離縁となった。
それ以来、この大岩の前を通る花嫁は皆、離縁になったり、夫に先立たれるようになった。
いつしかこの大岩は“去られ岩”と呼ばれ、婚礼の行列の際は必ず避けて通るようになったという。
『郷土ものがたり 第二輯』「去られ岩」
『福知山の民話と昔ばなし集』「去られ岩」より
おしまの夫はどこへ……。