釣瓶下し (つるべおろし)


釣瓶下しという妖怪は、亀岡市、南丹市にまたがり伝えられている。

●亀岡市
曽我部村字法貴(現・曽我部町)のある家の前には榧の木が生えていて、昔からこの木には釣瓶下しがいると言われていた。
釣瓶下しは、「夜業(よなべ)済んだか、釣瓶下ろそか、ぎいぎい」と歌いながら下りて来ると言い、夜は誰もその木の下を通らなかった。

曽我部村字寺の田圃の中には、一本松などと呼ばれる古松がある。
昔から夕方になると、この松から首が下りて来て、通行人を引っ張り上げて喰ったという。
満腹のためか、人を喰った後二、三日は下りて来ないが、しばらくするとまた下りて来ては人を取り喰らったという。

大井村字土田(現・大井町)の寺の南にある家には、大人三人がかりでも抱えきれない程の太い大木がある。
この木にも釣瓶下しがいて、早朝や夕方になると通行人を取って喰ったという。

●南丹市
富本村(現・八木町)の小寺と呼ばれる寺に、蔦が巻きついた松の大木がある。
この木にも釣瓶下しがいるとされ、村人から恐れられていたという。

富本村字青戸にある大木には、釣瓶下しという狸のようなものがいて、木の下の通行人を釣瓶で掬い上げて喰ったという。
そのため、釣瓶下しがいたと言われる木は全て伐り倒してしまったという。

園部城東堀の不明門のそばには古井戸があり、その横に椿の古木がある。
その木に古狸が取り憑き、夜な夜な“釣瓶コカシ”となって現れたという。
女子供は気味悪がり、その椿の辺りには近づかなくなったという。

『口丹波口碑集』
『丹波の伝承』


“釣瓶下し”は全国に伝承されている妖怪で、特に京都、大阪、滋賀、福井、三重、愛知と、近畿や東海地方に多く見られます。
京都府ではこの他に、京都市、向日市に伝えられています。

*京都市(『京雀 巻三』)
元誓願寺通り(上京区)に大きなモミの木があり、そこに妖物(ばけもの)が棲んでいて、夜になると梢から光り物(人魂などの正体不明のもの)になって下りてくる。
その形は釣瓶のようで、人々は“ハネツルベ”と名をつけたという。

*向日市(『古今百物語評判』)
五月頃のこと、ある人が西ノ岡で雨に降られたが、急用のためそのまま家路についていた。
夜になり、ある藪の近くを通りかかった時、大木のそばに鞠のような火の玉が浮かんでいるのを見かけた。
これは何だと見続けていても、上下に動くだけでどこかへ飛んで行くようなこともない。恐ろしくなり、慌てて逃げ帰った。
この話を聞いた山岡元隣(『古今百物語評判』の編纂者)は五行説を基に「それは俗にいう“つるべおろし”という光り物で、大木の精である」と説明したという。

丹波地方の釣瓶下しと違い、人を取って喰うことはなかったんでしょうか。