傀儡の精 (くぐつのせい)


昔、諸国を巡業する一人の傀儡師(人形を使う旅芸人)がいた。
年を取り、まともに歩くことすら難しくなったので、彼は傀儡師を辞め故郷の丹波国笹山(現・丹波篠山市)へ戻った。
だが、次第に生活は苦しくなり、湯を沸かすための薪すら事欠くようになった。
そこで老人は、かつて仕事で使っていた人形をバラバラに割り砕き、これを薪にして湯を沸かした。

その夜、近隣の村人たちは、叫び声を上げながら狂ったように走り回る老人の姿を見かけた。
村人たちは老人を押し止め、「一体何が取り憑いたんだ」と聞くと、彼は答えた。
「私はこの男が使っていた傀儡の精だ。この男、かつては私を使って仕事をし、大切に扱ってくれていた。だが今は庭の片隅に捨て置き、埃を払うこともしない。私の身体はネズミの巣にされ、顔は欠け壊れ、衣服は腐り破れ恥ずかしい姿を晒したまま朽ちていった。挙げ句、バラバラにされて火の中に放り込まれたのだ。この怨みが尽きることはない。見ろ、「古物に霊なし」と侮ったこの男の命、今すぐ奪ってみせてやる」
次の瞬間、老人は多量の血を吐きながら悶絶し、その夜の内に死亡したという。


『続向燈吐話』「丹波国傀儡の霊の事」より


物は大切にしましょう。