鏡石 (かがみいし)


黒井東町の小間物屋・吉右衛門は妻帯者でありながら、おみよという娘の家に足繁く通っていた。
その噂は妻のおたきにも聞こえ、夫婦仲は険悪となり、商売も疎かになっていった。
遂におたきは吉右衛門を祈り殺そうと決心し、毎夜丑三つ時に兵主神社の奥の森へ行き、大杉に祈り釘を打ち込んで願をかけた。
効果があったのか、やがて吉右衛門は風邪をひいて寝込んでしまった。
いよいよ満願の日の夜、おたきは覚悟を決めて兵主神社の森へ向かった。
だがその途中、何気なく境内にある「こうごう石」を見ると、石に悪鬼、夜刃(夜叉?)のようになった自分の姿が映っていた。
恐怖を感じたおたきはこれまでの行いを後悔し、大杉に打った釘を残らず抜き取った。
そして夫に全てを打ち明けて懺悔すると、吉右衛門も不貞を改め、真面目に商売を取り組むようになった。
やがて吉右衛門の小間物屋は繁盛するようになり、黒井でも屈指の大店になったという。
この「こうごう石」は“鏡石”と名づけられ、邪心を祓う奇石として今も兵主神社に祀られている。

『由緒を尋ねて』「黒井のかがみ石」より


参考文献には鏡石に映った妻の姿を「夜刃」と表現していますが、これが何を指すのかはわかりません。
夜に刃を研ぐ奴→鬼婆的なニュアンス?
(「夜刃」は「夜叉」の誤記ではないかとのご指摘をいただきましたので、本文に加筆しました)



鏡石1
兵主神社の鏡石。
本殿裏の森にひっそりと祀られています。
今も信仰されているらしく、幾ばくかのお賽銭が供えてありました。


鏡石2
綺麗に割れているように見えますが、この断面部分に悪鬼となった姿が映ったのでしょうか。


伝承地:丹波市春日町黒井・兵主神社