由良の浜姫 (ゆらのはまひめ)


昔、小橋の港に立ち寄った水夫が語った話である。

越前へ向かう貨物船が由良の沖を通りかかった時、浜辺に天女のような美しい女が立っているのが見えた。
長い海上生活で女に飢えていた水夫たちは、我先に船を下りようとしたが、船頭に「船上から眺めるだけにしろ」とたしなめられた。
水夫たちは浜辺の美女に向かって、未練がましい言葉を並べ囃し立てることしか出来なかった。
すると女は懐から紙と筆を取り出し、何かをしたため始めた。文を書き終えた女は鈴を転がすような声で言った。
「私の姉が敦賀の浜で皆様をお待ちしていますので、この手紙を届けて下さい。必ず姉様が皆様のお相手を致します。ただし船上では、決して手紙を開かないで下さい」
不思議なことに、女が言い終わった時には、手紙は船頭の手の中に収まっていた。
半ば強制的に手紙を受け取った貨物船は由良の浜を離れていった。
沖に出てから船頭は言った。
「まさしくあれは、浜姫。手紙を開けて中を検めなければ」
水夫たちの反対を押し切り、船頭は手紙を開いた。

『一筆まいらせ候。この者共、いと美味そうなれど、浜へは降り立たず逃げ申し候。口惜しいこと故、何とぞ、そちらへ到着の上は、一人残らずお召し上がり下さるよう願い上げ申し候。早々かしこ。由良の浜姫より』

手紙にはそう書かれていたという。

『わが郷土 丸山小学校創立百周年記念誌』「由良の浜姫」より


船頭が知っていたということは、地域では名の知れた妖怪だったのでしょうか。
ちなみにこれは『日本昔話名彙』の「水の神の文使い」や『日本昔話大成』の「沼神の手紙」などに見られる、いわゆる「旅人が沼や川の主から別の土地に住む兄弟(姉妹)に手紙の配達を頼まれるが、途中で中を検めると『この配達人を喰っていいヨ』的なことが書かれていたので、対策を講じて難を逃れる」系伝承の舞鶴バージョンだと思われます。
有名なところだと『遠野物語』にも同じような話が載っていますね。
丹波・丹後地方では他に亀岡市、伊根町に同じ系統の話が伝わっています。