みとじ


昔、三浜の宮ノ川の上流に一の滝、二の滝、三の滝という三つの滝があった。
その滝壺には“みとじ”という、一抱えもある大きなアワビの妖怪が棲んでいた。
みとじは綺麗な鯉に化け、捕ろうとした者を水中に引き込んで食べてしまうという。
みとじを恐れた村人たちは誰も滝に近づかなくなった。

ある時、旅の修験者がみとじの話を聞き、「退治してやろう」と、一人で滝に向かった。
滝壺に綺麗な鯉が泳いでいたので、修験者は思わず手を伸ばそうとした。
すると、どこからか鐘の音が鳴り響き「やめとけ、やめとけ」という風に聞こえた。
みとじが鯉に化けていると気づいた修験者は、御仏の力を高めてこれを退治したという。
それ以来、滝壺からみとじの姿は消え去ったという。
しかし、今でも宮ノ川の上流を「みとじ川」と呼び、海で溺れて死ぬと「みとじが引いた」と囁かれる。
鐘は昔、三浜にあった徳雲寺のもので、この辺りでは今なお「鐘の音を聞いた」という者が後を絶たないという。

この他に、みとじが村人と相撲をとったという話も伝えられている。

こちらのみとじは、宮ノ川にかかる宮川橋を渡る者に話しかけてきたという。
若い娘が通れば橋の下から覗いて冷やかし、そして「ぴやぴや」と鳴いて喜んでいた。
みとじはとても力が強く、村人はどうすることも出来ずにいた。

ある日、村一番の力持ちの勘七という男が橋を通ると、下からみとじが相撲勝負を申し込んできた。
力が強いと言っても所詮はアワビ、と侮った勘七は、みとじとの勝負を受けることにした。
いざ松原で相撲をとると、勘七はあっさりと負けてしまった。
勘七は「今のは力試しだ。お前が殻から出て来て潰れたら大変なので、負けてやった」と挑発すると、みとじは怒って裸同士での勝負を持ちかけた。
勘七はふんどし一丁、みとじは貝殻を脱いだ姿になって再び相撲をとった。
初戦とは異なり、勘七は押しても引いてもびくともしない。みとじは慌てたが、どうすることも出来ない。
時間が経つにつれ、太陽に照らされたみとじの体はだんだん干からびていく。
とうとう耐えられなくなったみとじは、負けを認めて水の中へ逃げ込んだ。
実は勘七は、ふんどしの中に河原の石を積めて体を重くしていたのであった。そのため、みとじは勘七を動かすことが出来なかったのである。
以来、みとじは悪さをしなくなったという。

『舞鶴の民話 第一集』「みとじ」
『舞鶴の民話 第二集』「みとじずもう」より


全国的にも珍しい(?)アワビの妖怪です。
鯉に化けたり力が強かったり貝殻を脱着出来たりと多彩な特技を持っています。あと鳴き声が可愛い。
どうでもいいですが「貝殻を脱いで中身むき出しのまま相撲をとった」というシーン、想像したらシュールな光景すぎやしませんか。
ちなみに舞鶴市の東隣、福井県高浜町では河童のことを“海盗児(みとじ)”と呼ぶそうですが、両者には何か関係があったりするのでしょうか。