鬼娘お花 (おにこおはな)


昔、猪崎に子供のいない長者夫婦がいたが、「烏ヶ岳にある千年杉の根元の子授け地蔵に百度参りをすれば子供を授かる」という話を聞き、毎日願掛け参りをすることにした。
時は流れ、ちょうど百度目の朝、長者が地蔵に参ると裏の草むらから泣き声がするので覗いてみると、女の赤ん坊が泣いていた。
「これは地蔵様が授けて下さった子供だ」
長者は赤子を抱いて家に帰り、妻に一部始終を語り喜び合った。
女の子は「お花」と名付けられ、大切に育てられた。

お花が十六歳になった頃、お民という娘と一緒に針仕事を習うことになった。
ところがある日、習い事から帰宅途中、お花は「用事が出来たからここで別れる」と言って姿を消してしまった。
それが何度も続いたので不思議に思い、お民は彼女を尾行することにした。
お花の向かった先は墓場だった。
お花は素手で土を掘り返し、中から人骨を取り出してはパリパリとしゃぶり喰っていた。
お民に気づいたお花は、凄まじい形相で彼女を睨みつけた。その目は釣り上がり、口は耳元まで裂けていた。
お花は「私の正体を話したら、お前の命をもらう」と脅すと姿を消した。

それからしばらく経ったある嵐の夜、お民はお花の正体を両親に打ち明けた。
すると急に突風が家の中に吹き荒れ、破風口を破ってお花が現れた。
鬼の形相となったお花はお民を抱え、両親を睨みつけながら再び破風口から飛び出し、烏ヶ岳の空高く上って消えて行った。
それ以来、村人たちは鬼娘を恐れて破風口を造らなくなったという。

『史談 ふくち山』第386号「伝説 鬼娘の話」より


お花がお民を抱いて破風口から逃げ去ったので破風口を造らなくなった……というくだりは、『太平記 巻第三十二』にある、斬られた腕を取り返しに源頼光の元へ来た牛鬼が、渡辺綱をさらって破風口から飛び去っていったため破風口を造らなくなった、というエピソードと似ています。