庄兵衛よいしあん (しょうべえよいしあん)*
上漆原に稲富庄兵衛(治介)という鉄砲の名人が住んでいた。
猟師である庄兵衛の狩り場は昼でも薄暗い森の中にあった。
ある夜、庄兵衛が獲物を待っていると、目の前に一匹の鼠が現れた。そこへ猫がやって来て、鼠を捕らえてしまった。
鼠を捕らえた猫は、その後にやって来た狐に捕まった。そして狐は狼に捕まり、狼は熊に捕まってしまった。
食物連鎖のような一連の流れを見ていた庄兵衛は、熊を撃つため鉄砲に手をかけた。
「熊より強いやつはいないだろう。討ち取るってやる」
だが、そこでふと思い直し、
「今夜は不思議なことが起こる。もし熊を撃ち殺せば、更に強い敵が現れて自分を襲って来るだろう」
庄兵衛は鉄砲の狙いを外すと、一目散に山を駆け下りた。
一町(約110m)ほど進んだところで、背後から不気味な老婆の声がした。
「庄兵衛よいしーあーん(良い思案)」
当代一の鉄砲撃ちと謳われた庄兵衛に、魔神が声をかけたのだ。
弱肉強食を諦め魔神の襲撃を逃れた庄兵衛は、無事に村へ帰ることが出来たという。
その後、庄兵衛は猟師を辞め、鉄砲を売り払って田を買った。上漆原には今でも「鉄砲田」という名前が残っているという。
「技術に秀でた者は。自分の限界を知っているものだ」
庄兵衛の教訓は今も上漆原に語り継がれているという。
『舞鶴の民話 第一集』「庄兵衛屋敷」より
アニメ『まんが日本昔ばなし』に「よいしあん谷」という話があり、この話とよく似ています。
こちらは山口県の話で、基本的に大筋は同じですが最後に魔神が登場しません。
*追記
どうやら『岩邑怪談録(続)』の「好思案谷の事」がモデルっぽいですね。
