丹波・丹後の妖怪あつめ

京都府北部(丹波・丹後地域)の怪異妖怪伝承を紹介するブログです。

2019年07月

庄兵衛よいしあん

庄兵衛よいしあん (しょうべえよいしあん)


上漆原に稲富庄兵衛(治介)という鉄砲の名人が住んでいた。
猟師である庄兵衛の狩り場は昼でも薄暗い森の中にあった。

ある夜、庄兵衛が獲物を待っていると、目の前に一匹の鼠が現れた。そこへ猫がやって来て、鼠を捕らえてしまった。
鼠を捕らえた猫は、その後にやって来た狐に捕まった。そして狐は狼に捕まり、狼は熊に捕まってしまった。
食物連鎖のような一連の流れを見ていた庄兵衛は、熊を撃つため鉄砲に手をかけた。
「熊より強いやつはいないだろう。討ち取るってやる」
だが、そこでふと思い直し、
「今夜は不思議なことが起こる。もし熊を撃ち殺せば、更に強い敵が現れて自分を襲って来るだろう」
庄兵衛は鉄砲の狙いを外すと、一目散に山を駆け下りた。
一町(約110m)ほど進んだところで、背後から不気味な老婆の声がした。
「庄兵衛よいしーあーん(良い思案)」
当代一の鉄砲撃ちと謳われた庄兵衛に、魔神が声をかけたのだ。
弱肉強食を諦め魔神の襲撃を逃れた庄兵衛は、無事に村へ帰ることが出来たという。

その後、庄兵衛は猟師を辞め、鉄砲を売り払って田を買った。上漆原には今でも「鉄砲田」という名前が残っているという。
「技術に秀でた者は。自分の限界を知っているものだ」
庄兵衛の教訓は今も上漆原に語り継がれているという。

『舞鶴の民話 第一集』「庄兵衛屋敷」より


アニメ『まんが日本昔ばなし』に「よいしあん谷」という話があり、この話とよく似ています。
こちらは山口県の話で、基本的に大筋は同じですが最後に魔神が登場しません。

*追記
どうやら『岩邑怪談録(続)』の「好思案谷の事」がモデルっぽいですね。

大銀杏の姫の亡霊

大銀杏の姫の亡霊 (おおいちょうのひめのぼうれい)


昔、丹波亀山城に美しい姫がおり、城主である父親に大変可愛がられていた。
だが父が死んでしまい、姫は悲しみに泣き暮れる日々を過ごしていた。
姫の嘆きように人々はどうすることも出来ず、ついに彼女を生き埋めにしてしまった。
その後、生き埋めにした所から銀杏の木が生え、大きく成長した。

時は流れて明治になり、城が破壊されることになった。
その時、銀杏の木を伐り倒すため斧を入れようとしたが、姫の亡霊が現れて作業が出来なくなった。
何度も伐倒を試みるも、その度に姫の亡霊が現れては哀願するので、とうとう倒さないまま放置された。
銀杏の木は現在も伸びるに任せ、黒々とそびえ立っているという。
そして、この銀杏の実を食べた者は必ず腹痛を起こすと伝えられている。

また一説には、銀杏の木には大蛇が棲んでいて、それが姫に化けて現れ通行人に話しかけることがあったという。

『丹波の伝承』「亀山城の大銀杏」より


「姫が立ち直らない……」→「生き埋めにしよ」という発想が斜め上過ぎる。

伝承地:亀岡市荒塚町・丹波亀山城(城址)


お下げ髪の少女

お下げ髪の少女 (おさげがみのしょうじょ)


昔、宮津から野間(丹後町弥栄)へ向かう途中に堤があった。
堤は深い山の中にあり、木が鬱蒼と生い茂って昼でも薄暗い気持ちの悪い場所だった。

ある日の夕暮れ、一人の女がその堤を通りかかった。
すると、お下げ髪の少女が一人、堤に座ってピシャピシャと水に足をつけている。
「こんな所に女の子がいるなんて、どこの子供かなあ」と思いながら、女は野間の親戚の家に向かった。
気になった女は親戚に「あそこの堤に座っていた少女はどこの子だ」と尋ねた。
すると「あれはいつも色々な姿になってあの堤に出て来ては、一人で遊んでいる化け物だ」と答えたという。

現在は縦貫林道が整備され、堤も埋められて小さな池になっている。

『みやづの昔話 -北部編-』「狐狸にだまされる話-おさげの女の子」より


不思議な少女シリーズ。
こちらは夜物(狐狸の類)が化けたものではないかと言われています。

狐使者道官

狐使者道官 (きつねししゃどうかん)


福知山城主・朽木公の家来に道官という狐がいた。
道官は主君が江戸勤務の時は、福知山と江戸間の便りを運ぶ使者の役を受けていた。
普通の使者なら片道七、八日は費やすところを、道官は三日で移動していた。
これに恨み心を抱いた他家の使者は、道官は狐使者だろうと言い出し、道中に毒入りの焼き鼠を仕掛けておいた。
すると道官は焼き鼠の良い匂いにつられ、それを食べて死んでしまった。
その後、朽木公は狐の死を哀れみ、道官稲荷神社を建立し御神体として祀ったという。

『福知山の民話と昔ばなし集』「道官稲荷神社」より


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道官稲荷神社は福知山の住宅地の一角にひっそりと祀られています。
昔から福知山城内にある内記稲荷が「初午さん」、外方守護の道官稲荷は「二の午さん」と呼ばれているそうです。(『現地案内板』)

お隣の兵庫県豊岡市出石町には“首白孫左衛門”という首の毛が白い狐がいて、道官のようにお殿様の使者役を担っていました。
ですが孫左衛門も道官と同じく、彼を妬む人々によって毒殺されてしまったとのこと。人間め……。(『日本の伝説43 兵庫の伝説』)


伝承地:福知山市末広町


慈雲寺の大龍

慈雲寺の大龍 (じうんじのたいりゅう)


香河の慈雲寺は元中元年(1384)に天寧寺の元哉禅師によって建立された寺院である。
昔、龍がこの地に降りて、しばらく天に昇れなくなったことがあった。
ある時、竜巻が起こったのでこれに乗って天に帰ろうとしたが、運悪く女にその姿を見られてしまい失敗した。
次に天へ昇るには、山に千年、海に千年の修行を積まなければならない。
だが名僧から経典を賜ればすぐに昇天出来る。
それを知った龍は女に化け、供養を行うためと偽って慈雲寺に参詣した。
ところが寺の名僧は女の正体を見抜くと「寺は女人禁制の所である。経を求めるならば、真の姿となって参られよ」と言って参詣を断った。
龍は大人しく引き下がると、口から火を吹く大龍となって再び寺へ姿を現した。
こうして僧から経を賜った龍は、礼として自分の前足を噛み切って天に帰っていった。
それは現在でも寺に保管されており、「龍の鱗」として寺宝になっているという。

『加悦町誌』「大龍」
『丹後の民話』「慈雲寺のはなし」より


兵庫県三田市にも、女に化けた龍が寺の名僧の教えを請うて天に昇る、という伝承があります。(『上方』128号)


伝承地:与謝野町香河・慈雲寺


首吊れ

首吊れ (くびつれ)


ある飛脚が手紙の配達先に向けて走っていた。
だが途中で便意を催してしまい、偶然近くにあった便所に飛び込んだ。
すると天井から「首吊れ。おもしれえぞ。首吊れ。おもしれえぞ」という声がする。
飛脚は「そんなに面白いことなのか」と思い、試そうとした。
だが仕事中であることを思い出し「先に手紙を届けて、戻って来た時に首を吊るから待っててくれ」と言って便所を飛び出し、目的地に向かった。
無事に手紙を届けた帰り道、飛脚は再びその便所に飛び込んだ。
ところが、中では別の男が首を吊ってぶら下がっていた。
首吊り死体を見た飛脚は驚き、「首吊りとはこんなに恐ろしいことなのか」と思い直し、首吊りをせずに帰ったという。

『久美浜町の昔話 ふるさとのむかしばなし』「首つりの話」より


過去に紹介した福知山市の“首吊り坊主”のように、人を誘って首吊りをさせる嫌な妖怪です。
ただこちらは姿を見せず、声だけで首吊り自殺に誘うようです。
飛脚の「仕事が終わってから首吊るので待ってて」というくだりは『反古のうらがき』にある妖怪“縊鬼”の話と似ています。
首吊りを後回しにしたおかげで助かるところや、代わりに他の人が首を吊ってしまうところも同じです。
近年のものだと『新耳袋 第六夜』にも「庭の木を見ていると無性に首を吊りたくなったが、仕事を済ませてからにしようと思った。仕事を終えて戻って来ると、別の人が首を吊っていた」という、これまた似たような話が掲載されています。


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