牛鬼 (うしおに)
木子の吉原という所には、人を化かす“牛鬼”という妖怪がいるという。
ある大雪の日、内山(現・京丹後市大宮町)の村人が吉原の丸山という田圃の辺りを通った。
吹雪で前後が見えなくなってしまったが、杖を突きながら何とか雪道を歩いていると、急に道が良くなった。
「変だな。ひょっとすると同じ所をぐるぐる回っているのかもしれない」
そう思い、杖を地面に突き立ててから周囲を歩いてみた。
しばらく歩くと、さっき立てた杖が見えてきた。どうやら元の場所に戻って来てしまったようだった。
「これは牛鬼に化かされている」と思い、慎重に道を見極めながら進むと、無事抜け出すことが出来たという。
またある夜、吉津村(現・宮津市文珠)の老人が隣村から土産の蕎麦を手に山道を歩いて帰っていた。
すると突然目の前に山が現れ、そこから先へ一歩も進むことが出来なくなった。
これは牛鬼の仕業で、狙いは蕎麦であると気づいた老人はその場に腰を降ろし煙草に火を点けた。
そして「お前らに蕎麦はやらん。近寄ってきたら生け捕りにしてやる」と辺りを見廻しながら威嚇した。
しばらく煙草を吸っていると、目の前の山に針先程の穴が空いた。
穴は段々大きく広がっていき、やがて元通りの道に戻ったという。
『丹後の民話 第一集 いかがのはなし』「木子の吉原 牛鬼が化かす」
『天橋立秘帖 史実と伝説集 2』「橋立小女郎」より
「牛の頭に鬼の体(またはその逆)持った、人を襲う凶暴な妖怪」というのが、一般的な牛鬼像だと思います。
ですが、宮津の牛鬼は姿を見せずに人を惑わせたり通せんぼをしたりする、あまり牛鬼のイメージにない(?)怪現象を起こす妖怪として伝えられているようです。
爺が「生け捕りにするぞ!」と強気に出ていることから、宮津の牛鬼はせいぜい人の邪魔をするくらいで、それほど危険なものではなかったんですかね。
