丹波・丹後の妖怪あつめ

京都府北部(丹波・丹後地域)の怪異妖怪伝承を紹介するブログです。

2020年01月

大唐内の大蜘蛛

大唐内の大蜘蛛 (おからちのおおぐも)


昔、大唐内の山奥に大蜘蛛が棲んでおり、田畑を荒らし若い娘をさらい、村人を困らせていた。
そこで村人たちは有安村の弓の名人・藤元善右衛門に大蜘蛛退治を依頼した。
善右衛門は水垢離をして成功を祈願した後、大蜘蛛の棲む谷へ向かった。
だが大蜘蛛は善右衛門の気配を感じても恐れる様子はなく、谷を跨いでじっと見下ろしていた。
そして善右衛門は大蜘蛛に狙いを定め、僅か一矢でこれを退治した。
大蜘蛛退治の報を聞いた村人たちは大変喜び、村を挙げての祭が三日三晩続いたという。
それ以来、毎年十月一日には有安から善右衛門の一族を招き、彼の好物だった甘酒を振る舞う「甘酒講」が行われるようになったという。

『ふるさとのかたりべ』「大唐内の大グモ退治」
『綾部の伝説・民話』「大唐内の甘酒講」より


『丹波志 何鹿郡之部』では「昔、奥の山に人を取る大蜘蛛が棲んでいたが、草壁村に住む高野聖が祈祷により退治した」とあり、同じ大蜘蛛退治譚でも内容が微妙に違っています。


伝承地:綾部市老富町


片目の怪物

片目の怪物 (かためのかいぶつ)


福知山市大江町と舞鶴市桑飼上の境、狭迫峠には「大刀洗い」と呼ばれる小さな池があった。
昔、この辺りには人の目玉をくり抜く片目の怪物が出ると言われていた。

ある秋の夕暮れ、一人の武士が峠を登りこの池の近くまでやって来た。
その時、茂みから大きな片目の怪物が現れた。その口は耳まで裂け、残った一つ目は爛々と輝いている。
怪物は武士に襲いかかるが、反撃され刀胴を斬りつけられた。
怪物は鋭い悲鳴とともに二、三間(約3~5m)山際に飛び退くと、そのまま姿を眩ませた。
残された武士は、血に染まった刀を近くの池で洗い清めた後、立ち去ったという。
翌朝、この池の畔で、胴体を斬られた大きな片目の狸の死体が発見された。
この狸は猟師に片目を奪われた怨みから、怪物となって人を襲い、目玉をくり抜いていたのだという。
また、この怪物を斬った武士は、剣豪・岩見重太郎だったとも伝えられている。

『郷土史岡田上』「太刀洗い」より


岩見重太郎の妖怪退治シリーズ。
仇討ちを遂げた舞台(天橋立)から近いためか、舞鶴や宮津には岩見重太郎の妖怪退治エピソードがいくつか伝えられています。

紅白の着物を着た者

紅白の着物を着た者 (こうはくのきものをきたもの)
 

大正の頃、ある男が牛を連れて草山村本郷(現・丹波篠山市)へ茶の取引に行き、夜遅くに栗柄峠を通って帰っていた。
すると、遙か向こうの山の上から「オーイ」と呼ぶ声がする。
男は村の者が迎えに来てくれたのかと思い、提灯を振って「オーイ」と答えた。
その瞬間、どこから現れたのか、目の前の道を紅白の着物を着た者が横切った。驚くと同時に提灯の火が消え、辺りは暗闇に包まれた。
男は落ち着いて火を灯し周囲を見るが、特に変わった様子はない。
山の方からは相変わらず「オーイ、オーイ」と呼ぶ声がする。彼は声を無視して歩き出した。
すると「一人か大勢か」という声が聞こえた。
山賊の襲撃かもしれないと思った男は「他にも連れがいる」と答えて身構える。だが、何となく寒気がして気持ちが悪くなってきた。
また、紅白の着物を着た者が眼前を通り過ぎた。それに驚いた牛が暴れ回り、提灯も何もかもを蹴散らしてどこかへ逃げてしまった。
男は「やられた」と思い、覚悟を決めて暗闇の道に腰を降ろした。
その時、彼の耳のすぐそばで「オーイ!」と、鼓膜が破れるほどの凄まじい声が響いた。
恐ろしくなった男は慌てて立ち上がり、夜道を走り逃げ出した。
峠を越え村に近づく頃には、「オーイ」と呼ぶ声は聞こえなくなっていたという。

『民俗学』2巻12号「藏人爐辺話」より


狐狸のように荷物を盗むわけでもなく、命を奪うわけでもない……ただ脅かすだけの怪異のようです。

餅を流す山姥

餅を流す山姥 (もちをながすやまんば)


美山の山奥には山姥が棲んでいるという。
山姥は時々里に現れては人や家畜を襲って食べる恐ろしい鬼女だが、不思議と子供には優しい。
毎年一月十五日は「山姥正月」と呼ばれ、この日の早朝、山姥が子供たちのために餅を川へ流すと言われている。
子供たちは母親が川から拾ってきた「山姥の餅」を小豆粥に入れて食べれば、一年間元気に過ごすことが出来るという。
ちなみに、山姥は前日の十四日に大きな松の頂点で松で作った臼と杵を使って餅をつく。
そのため、山姥の餅は松の香りがするのだという。
また、この日は川が白く濁るが、これは山姥が餅米のとぎ汁を流しているからだと言われている。

『山村の十二ヵ月』「一月 小正月のころ」より


の木のてっぺんで餅をつく山姥……アクロバティック過ぎる。


伝承地:南丹市美山町

盗人口の怪異

盗人口の怪異 (ぬすとぐちのかいい)


下天津の宮津街道(国道176号線)に「盗人口」と呼ばれる所がある。
夜にここを通ると、様々な怪異に遭遇するという。

① 小豆洗い
夜更けに崖下の川(由良川)で何かが「フウフウ、ブツブツ」と言いながらザルで小豆を洗っている音が聞こえてくる。
その音は人の歩みに合わせ、崖下をついて来るという。

② 砂まき小僧
崖の上でガサガサと音がしたかと思うと、小石や砂が通行人目がけて撒かれる。
これも人の歩みに合わせ、ガサゴソと音を立てながら小石や砂をぶつけてくるという。

③ 灯り盗み
提灯を持って歩いていると、急に蝋燭の火が消えることがある。
中を覗くと蝋燭がなくなっていたり、時には提灯を持つ手が何か柔らかいものに触れられたと思った途端、提灯ごと何者かに奪われるということもあった。

④ 火の玉
雨降りや霧の深い夜は幾つもの火の玉が飛ぶので、村人はこの時は通らなかったという。

⑤ 一つ目小僧
大きな荷物を持って通ると、背丈が一丈(3m)以上ある一つ目の大男が、両手を広げて立ちはだかる。
通行人は恐怖で腰を抜かし、気がつけば荷物をなくしているという。
村人はこの妖怪を“一つ目小僧”と呼び、最も恐れた。

⑥ 髪を梳く娘
川岸に松が数本あり、その中に枝が横に長く伸びた雄松があった。
晴天の月夜にここを通ると、美しい少女が松の枝に白い両脚を前に垂らして座り、長い黒髪を櫛で丁寧に梳いていることがある。
少女に見とれている内に、持っていた荷物がなくなっているという。


このように様々な怪異が起こるため、土地の人々はいつしか怖い目に遭う、盗人に遭うということから「盗人口」と呼ぶようになり、夜間の通行を控えたという。


『語りつぐ 福知山老人の知恵』「下天津盗人口」より


豪華六本立て。まさに怪異妖怪のオンパレード。
ちなみにこの話には余談があり、「自分も幽霊になれば妖怪に遭遇しないのでは?」と考えた人が、櫛を口に咥え、ざんばら髪に白装束の幽霊のコスプレをして盗人口を通ってみた、ということがあったそうです。
この村人が無事怪異を避けられたかどうかは不明です。

現在の宮津街道は車の往来が激しく、妖怪が出そうな雰囲気はありません。
夜に通っても出遭うのは鹿ばかりです。

伝承地:福知山市下天津

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