丹波・丹後の妖怪あつめ

京都府北部(丹波・丹後地域)の怪異妖怪伝承を紹介するブログです。

2020年02月

龍神井戸

龍神井戸 (りゅうじんいど)


ある年、中夜久野村は旱魃に見舞われた。
村の長者は雨を降らすため、自分の屋敷の片隅にある井戸に願いを立てることにした。
この井戸は龍神が棲む井戸で、水底は龍宮まで続いていると伝えられていた。
早速雨乞いをし、代償として一人娘を龍神の嫁に差し出すことを誓うと、長者は気を失った。
すると、それまで雲一つなかった空に黒雲が現れ、大粒の雨が降り出し、長者が目を覚ました。
長者は「龍神に連れられて龍宮へ行き、土産に雨を持ち帰ってきた。雨は明日の昼まで降り続くが、それが止めば娘を嫁に差し出さなければならない」と話した。
翌日の昼、予言通り雨が止んだ後、長者は娘を龍神に嫁がせた。
最後に娘は「もし今後必要なものがあれば夜に井戸の中へ頼んで下さい。翌朝までには願いの品を届けます」と言い残し、井戸へ沈んでいった。

その年の秋は雨のおかげで豊作となり、長者の屋敷で祝いの宴が開かれた。
だが食器が足りず、長者は娘の遺言に従い、夜に井戸へ行き「器を貸して欲しい」と頼んだ。
すると翌朝、井戸のそばに立派な食器が沢山置かれていた。
盛大な宴が開かれた後、使用人たちは片付けをしていたが、ある女中が椀を一つ割ってしまった。
女中は咎められることを恐れ、割れた椀を箱の中にしまい黙っていた。
その夜、長者は食器が入った箱を井戸へ運び、礼を言って立ち去ろうとすると、井戸底から娘のすすり泣く声が聞こえてきた。
井戸の中に呼びかけても返事はなく、ただ泣き声が遠くから近くから聞こえるだけだった。
不思議に思い家人に相談すると、女中が椀を割ったことを白状した。
長者は女中を許し、井戸に謝りに行ったが、それからは頼み事をしても何一つ叶えられることはなくなったという。

『郷土ものがたり』「長者屋敷の井戸」
『上夜久野村史』「竜神の井戸(旧中夜久野村高内)」より


全国的に分布している民話「椀貸伝説」系伝承の福知山バージョンです。
「椀貸伝説」とは、洞穴や淵、塚などから食器を借り(貸してくれる相手は蛇、狐、神と様々)、それらをちゃんと返却すれば良いが、返さなかったり壊したりすると二度と貸してくれなくなる、という話です。(『定本 柳田國男集 第五巻』)
ちなみに本文の龍神井戸は育英小学校(現・夜久野学園)の校庭内にあったそうですが、昭和の中頃に埋め立てられたそうです。


食器を貸してくれる石。
高坐石(丹波市)


伝承地:福知山市夜久野町高内

八切山の官女

八切山の官女 (やぎりやまのかんじょ)


ある夏の夕暮れ、祖母と少女が三俣の名国橋の近くを歩いていた。
ふと右手に聳える八切山を眺めると、三宝(神前に物を供える時に使う台)を恭しく掲げた官女風の女性が、山道を下りて来るのが見えた。
白衣に緋袴を履き、黒髪を腰まで長く垂らした妖艶な姿だったという。
三宝には鯛が載せられており、その目玉が異様に輝き、少女を見つめていたという。
だが、橋から山までは150m程離れていて、三宝に載せられた鯛が見える距離ではない。
恐ろしくなった少女は、悲鳴を上げてその場から逃げ出した。
悲鳴を聞いた神社の宮司が飛んで来たが、その頃には官女の姿は消え失せていたという。

『語りつぐ 福知山老人の知恵』「八切山の亡霊」
『三俣のあゆみ』「矢切山の亡霊」より


高知県には“アスカイ様”という、これによく似た妖怪が伝えられています。
アスカイ様…春や秋の夕方、50~100mほど離れた山縁などに稀に現れる官女姿の妖怪で、その姿を近くで見た者はいないという。(『近世土佐妖怪資料』)
「夕暮れ時」「官女風の姿」「離れた場所に現れたのを遠くから見る」などなど、“八切山の官女”と重なる特徴が幾つもあるのは興味深いですね。

八切山
名国橋付近から見た八切山。結構遠い。

子さらい天狗

子さらい天狗 (こさらいてんぐ)


昔、ある家の子供の夜泣きが治まらなかったので、親は外へと放り出した。
しばらく経つと静かになったので、家へ入れてやろうと外へ出た。だが、子供がいない。
村人総出で捜索したが、山中にその子供が持っていた箸が落ちていただけで、とうとう見つけることは出来なかった。
これは天狗が外で待ち構えていて、子供をさらって行ったのだという。
天狗は泣いている子供が好きで、泣き声を聞きつけてやって来るのだという。

また、野原に住む子供が天狗にさらわれて姿を消した。
三日後、子供は帰って来たが、額にはクマザサが三枚生えていた。
どうやっても取ることは出来ず、そのまま子供は死んでしまったという。

『わが郷土 丸山小学校創立百周年記念誌』「“子さらい天狗” -小橋-」より

頭を出す者

頭を出す者 (あたまをだすもの)


園部町と京丹波町の境には観音峠という峠があり、その麓に観音菩薩を祀った御堂が建っている。
昔、ある馬方(馬で荷物を運ぶ業者)がこの御堂のそばの石に座って休んでいた。
すると、横手から少しずつ頭を出す者がある。
それは翌日も翌々日も、毎日次第に頭を出してくる。
馬方は不思議に思い、試しに馬の轡をその頭の上に載せてみたところ、翌日からは出てこなくなったという。

『丹波の伝承』「湧出の観世音と傍の地蔵尊」より

観音堂
観音峠にある御堂。かなり見つけづらい場所にあります。

雪女

雪女 (ゆきおんな)


丹後町乗原では、大雪の夜には“雪女”がやって来ると言われている。
雪女は扉を叩いて家人を呼び出し「水を飲ませてくれ」と頼んでくるが、絶対に飲ませてはならない。
雪女に水を飲ますと雪崩を起こされるからだという。
水の代わりに湯を差し出せば姿を消すという。

地域は変わって、南丹市美山町鶴ヶ岡にも“雪女”が現れたという話がある。

昔、鶴ヶ岡村の外れの家で、老婆が正月の餅つきの準備をしていた。
ふと、外に人の気配がするので見てみると、雪に塗れた色白の美しい女が立っていた。
女はニコニコと笑いながら「婆さん、はげしいな」と言った。
老婆が「何者じゃ、煮え湯でもかけたろか」と怒鳴ると女は消え、雪の上に足跡だけが残されていた。
話を聞いた村人たちは「雪女だ」と言って恐れたという。

『ふるさとの民話 丹後町の昔話』「雪女」
『近畿民俗』110号「丹波美山口碑集」より


『ふるさとの民話 丹後町の昔話』には、もう一つ雪女の話が載せられていましたが、小泉八雲の『雪女』とほぼ同じ内容だったので割愛しました。

髪結び猫


髪結び猫 (かみむすびねこ)


西別院神地の府道のそばに墓があり、そこに長く髪を垂らした女に化けた“髪結び猫”が現れるという。
近年(大正十三年頃?)の春にも、墓の松が二股に分かれた所に現れたのを見た者がいた。
その時は墓の上に火の玉が一つ見えたかと思うと、その下で十七、八歳程の若い女がしきりと長い髪を垂らして結っていたという。


『口丹波口碑集』「猫の話」
『ふるさと口丹波風土記』「髪むすびの猫」より


妖怪事典などでも時々名前を見かけるのですが、その割にいまいち知名度が低いような気が。
地味だからかしら。



伝承地:亀岡市西別院神地(墓の位置は不明)


(2022/10/23 本文修正)

  • ライブドアブログ