丹波・丹後の妖怪あつめ

京都府北部(丹波・丹後地域)の怪異妖怪伝承を紹介するブログです。

2020年07月

大蛸の足

大蛸の足 (おおだこのあし)


倭寇が中国沿岸で猛威を振るっていた頃、丹後の磯の集落に藤兵衛という剛胆な海士がいた。
ある春の夜、藤兵衛は船で沖合を進んでいたが、突然、波もないのに船が傾いた。
急いで確認すると、海中から得体の知れない異様の太いものが伸び、船の胴に巻き付いていた。
藤兵衛は無言で刀を抜き、船に巻き付いた怪しいものを斬りつけた。
それは直径三尺(約90cm)もある大蛸の足だったという。

『丹後の伝説 ふるさとのはなし』「大蛸の足」より


丹後の海に巨大な蛸が現れたという話は他にもあり、丹後町(または伊根町)には衣を広げて舟ごと人を包み込む“衣蛸”という妖怪が出ると言われています。(『海村生活の研究』)
『難波噺』には、足の長さ約2.7m、太さ約50cmもある大蛸が現れたという話が載っていますが、漁師たちはその足を一本ずつ切り落とし、最終的に頭だけになった大蛸を捕まえて食べたそうです。たくましい。
また福井県敦賀市には、貝を取るために海に潜った男が周囲五尺(約1.5m)もある柱のような大蛸の足に捕らえられ、水中をくるくる回っていたという話もあります。(『南越民俗』)


伝承地:京丹後市網野町磯


傀儡の精

傀儡の精 (くぐつのせい)


昔、諸国を巡業する一人の傀儡師(人形を使う旅芸人)がいた。
年を取り、まともに歩くことすら難しくなったので、彼は傀儡師を辞め故郷の丹波国笹山(現・丹波篠山市)へ戻った。
だが、次第に生活は苦しくなり、湯を沸かすための薪すら事欠くようになった。
そこで老人は、かつて仕事で使っていた人形をバラバラに割り砕き、これを薪にして湯を沸かした。

その夜、近隣の村人たちは、叫び声を上げながら狂ったように走り回る老人の姿を見かけた。
村人たちは老人を押し止め、「一体何が取り憑いたんだ」と聞くと、彼は答えた。
「私はこの男が使っていた傀儡の精だ。この男、かつては私を使って仕事をし、大切に扱ってくれていた。だが今は庭の片隅に捨て置き、埃を払うこともしない。私の身体はネズミの巣にされ、顔は欠け壊れ、衣服は腐り破れ恥ずかしい姿を晒したまま朽ちていった。挙げ句、バラバラにされて火の中に放り込まれたのだ。この怨みが尽きることはない。見ろ、「古物に霊なし」と侮ったこの男の命、今すぐ奪ってみせてやる」
次の瞬間、老人は多量の血を吐きながら悶絶し、その夜の内に死亡したという。


『続向燈吐話』「丹波国傀儡の霊の事」より


物は大切にしましょう。

坊主狸

坊主狸 (ぼうずだぬき)


東本梅村にある稲荷を祀った小さな森には、一匹の古狸が棲んでいた。
この狸は夕方になると坊主に化けて道に立ち、通行人に何事か話しかけてくるという。
狸を恐れた村人たちは、夕方になるとこの森の近くを歩かないようにしたという。

『丹波の伝承』「稲荷の古狸」より


伝承地:亀岡市東本梅町大内


小蛇娘

小蛇娘 (こへびむすめ)


昔、上和知村の農家に一人の娘がいた。
ある朝、家の主人は娘の草履がずぶ濡れになっていることに気づいた。
それから毎朝、必ず娘の草履は濡れそぼっていたので、不審に思った主人は娘の部屋の隣で寝ることにした。
するとある夜、娘が部屋から抜け出す音が聞こえてきたので、主人は彼女の後を追った。
娘は大野川沿いの道を歩き続け、やがて蛇ヶ淵と呼ばれる所まで来ると、着物を脱ぎ捨て、髪を振り乱しながら水中に飛び込んだ。
娘はしばらく泳いでいたが、やがて陸に上がると再び着物を纏い歩き出した。
それから一里半(約6km)程進み、娘は鏡石という鏡のような岩の前で身なりを整えた後、胡麻郷村(南丹市日吉町)と大野村(南丹市美山町)の境にある大池の畔まで来た。
すると娘はその池に飛び込み、見る見る内に小さな蛇へと変化していったので、主人は一目散に自宅へ逃げ帰った。
それ以来、娘は二度と家に帰ってくることはなかった。

それから数日後、胡麻郷村の猟師が狩りに出かけ、件の大池の畔で休憩していた。
すると池の水面が揺れ、水中から美しい小蛇が現れた。
小蛇は陸に上がると猟師の近くまで這い寄り、足の親指に噛みついた。
猟師はうろたえることなく様子を観察していると、小蛇は親指を呑み込み、更に足までも咥え込んだ。
流石に気味が悪くなり鉄砲を構えたところ、小蛇は銃口もろとも猟師の脛まで呑み込んでしまった。
猟師はこれ以上は危険だと判断し、銃を撃った。
すると池の水面が真っ赤に染まり、そこに大きな蛇の死骸が浮かんだ。
それを見た猟師は慌てて逃げ出したが、その途中、滝の中に三枚の大きな鱗が光っているのを見つけ、その鱗を持ち帰り、家の庭に埋めて塚を建てた。
塚は鱗塚と呼ばれていたが、後に祟りが頻発したため墓地へ移されたという。

『丹波の伝承』「鱗塚の由来」より


後年に出版された『京都 丹波・丹後の伝説』(1977年刊)にも同じ話が載っていますが、こちらでは「水不足が続く村を救うため、娘は竜になって天に昇り雨を降らそうとしたが父に見られたため失敗。その後、娘は蛇の姿のまま人間にも竜にもなれないことに絶望して猟師に撃ち殺してもらった」というやたら救いのない話になっています。

姫大蛇(京丹波町)


伝承地:京丹波町長瀬



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