うしおに
久美浜町には“うしおに”という怪異が伝えられている。
雨や雪の夜に海へ出ると、ベテランの漁師でさえ方向を間違えることがあるという。
蓑笠から滴る雫が五色に輝き、不思議に思いながら灯火を目標に久美浜湾を舟で走っていると、何故か目標の地点へ辿り着くことが出来ない。
東へ行こうとすると西へ、南下しようすれば北上し、何時間かけても目的地に到達することが出来ず、一晩休みなく舟を操ることになるという。
海に限らず陸の上でも、雪の夜などはこれに似た怪異が起こる。
自分の家は見えているのに通り過ぎてしまう。家の前を何回往復しても、どうしても家に入ることが出来ないことがあるという。
これは鼬が人を迷わしているのだとも言われている。
また、カツオジという鯛釣りの名人が、雨の夜に舟で沖合に行って釣りをしていた。
すると陸から「カツオジ来いや。ぼたもちを喰わせてやるから来いや」と、自分を呼ぶ声がした。
カツオジは舟を下りて声の方へ歩いていくが、近づこうとすればするほど声は遠くなり、どれだけ進んでも声の主に辿り着くことが出来ない。カツオジは途中で諦め、舟まで戻った。
ところが、あれだけ大漁だった魚が一匹残らずなくなっており、それどころかエサのサナギも空になっていた。
仕方なく舟を漕いで帰路につこうとしたが、雨はますます強くなり、蓑笠を伝う雫が強く光り出した。
不思議に思いつつ舟を漕ぐが、漕いでも漕いでも方角はわからず目的地にも辿り着けない。
夜が明けてやっと方角がわかるようになったので、何とか船着き場まで戻ることが出来たという。
これを「“うしおに”つけられる」という。
『熊野郡伝説史』「うしほに」
『くみはまの民話と伝説』「うしおにの話(神野)」
『季刊 民話 1975冬 創刊号』「奥丹後物語 草稿」より
宮津の牛鬼に続き、今回は京丹後市に伝わる“うしおに”の怪異です。
こちらも姿を見せず人を惑わせるタイプの怪異ですね。
丹後に伝わる牛鬼は形のない怪現象のようなもので、姿を現して人畜を襲うことはない……のかと思いきや、丹後町には「人と喧嘩をして耳や顔をかじる“うしおに”がいる」という話があったりします。(『丹後町の民話 第二集』)
同じ丹後でも、地域によってずいぶん性質が違うみたいですね。
少し調べてみたところ、山陰地方には宮津や丹後の牛鬼と共通する話が幾つかあるようです。
『勝見名跡誌』(『日本伝説大系』第十一巻)では「鳥取県の湖山池で、時雨の夜に多くの“ウシオニ”に目や口が開けられなくなる程たかられ、蓑笠に氷筋(氷雨?)が蛍火のように付着した」という話が載っています。
これは久美浜町のうしおにの「蓑笠から滴る雫が五色に輝き~」という現象とちょっと似ていますね
ただ、舟や人を惑わせたりするという伝承はなく、この部分に関しては丹後独自のものなのかもしれません。
水滴が異様に輝き始める→うしおにが現れる(またはうしおにに惑わされている最中である)合図、なのでしょうか。
『異説まちまち』には「出雲国(島根県)のとある橋を渡ると、白く光る蝶のようなものが漂っていて、それが衣服に付いて払っても落ちない。これを「牛鬼に逢う」のだという」話があります。
伝承地:京丹後市久美浜町・久美浜湾など