鬼牛 (おにうし)
昔、千束(三和町)に“鬼牛”という、鬼の頭に牛の体を持つ妖怪が棲んでおり、山中に現れては村人を喰い殺していた。
村の青年久作は、人々を脅かす鬼牛を退治したいという思いから、隣村の萩原にいる刀鍛冶のもとを訪れた。
刀鍛冶は久作の熱意に打たれ、鬼牛を退治するための刀を作り授けることを約束した。
だが、普通の刀では鬼牛を退治することは出来ない。
刀鍛冶は一日百回ずつ鎚を打ち、千日かけて特別な刀を仕上げようと決めた。久作も刀鍛冶のために千日間、毎日柴を一束届けることを約束した。
それから久作は一日も休まず、仕事の合間に柴を刈っては鍛冶屋に運び続けた。
柴を千束運んだ頃、念願の刀が出来上がった。刀は運び続けた柴束の数にちなんで「千束丸」と銘打たれた。
刀を受け取った久作は神社に詣で、必勝を祈願した。
ところが翌朝目覚めると、枕元に置いていたはずの刀が、鞘だけを残してなくなっていた。
久作は千日もかけて作られた刀が消えていたことにひどく落ち込み、悲嘆に暮れる日々を送っていた。
そんな久作のもとに、村人から「鬼牛が倒れている」という知らせが入って来た。
不思議に思い山へ行くと、話の通り鬼牛が血を流して息絶えていた。その心臓には、なくなったはずの千束丸が突き刺さっている。
これは久作の願いが通じ、神が千束丸を用いて鬼牛を退治したのだろうと、村人たちは彼を誉め讃えた。
久作は神社にお礼参りを済ませた後、そこに千束丸を奉納したという。
『三和町史 上』「千束の化け物退治」より
丹後に引き続き、丹波は福知山市三和町の鬼牛(牛鬼)伝承です。
名前こそ「牛」と「鬼」が逆になっていますが、一般的な牛鬼像の妖怪だと思います。
物語の後半「刀が勝手に飛んでいって鬼牛を刺す」という部分は、山陰地方、特に島根県の牛鬼伝承に多く見られるエピソードです。
牛鬼伝承が山陰地方から伝わったと仮定すると、丹後では「怪現象」、丹波では「妖怪」と、近い地域なのに別物になっているのは興味深いですね。
伝播ルートが違ったこと(丹後→海路、丹波→陸路とか?)で土地特有の変化が加えられ、それぞれ違う怪異として成立していったのかもしれません。
丹後のうしおに(怪現象)は、あの地域の気象条件なんかも関係してそうですし。
福知山には他にも「芦淵(千束の北)の王歳神社近くに牛鬼が棲んでいた」(『五十年度 民俗採訪』)という話がありますが、これは千束と同じ個体だったのかもしれません。
伝承地:福知山市三和町千束