ガンドビキ狸 (がんどびきだぬき)


前回紹介した“筵の手”と同じく、炭焼き小屋での怪異。

夜に炭焼き小屋で作業をしていると、すぐ近くでグイッ、グイッとガンドビキの音(ノコギリで木を伐る音)が聞こえてくる。
こんな遅い時間に木を伐る者などいるはずがない。きっと狸が化かそうとしているのだろう。
職人は炭窯の中で燃えている木を掴み、音のする方へ投げつけた。すると、炎の灯りの端で、何か黒いものが逃げて行くのが見えたという。

別の日の夜、またグイッ、グイッとガンドビキの音がする。
狸の仕業だと無視していると、次の瞬間、メリメリと軋む音がして大木が小屋の上に倒れてきた。
職人は避難出来たが、倒れた大木は小屋の屋根を押し潰してしまった。
だが、翌朝起きて確認すると、屋根は壊れておらず、倒れてきたはずの大木も見当たらなかった。
そもそも、小屋の周りに大きな木は生えていなかったのだ。

『近畿民俗』通巻136,137号「丹波美山の言葉と民俗」より


“古杣”や“天狗倒し”などの、木を伐る音をさせる怪異とよく似ています。
この話はそれだけでは飽き足らず、倒れてくる木の幻覚まで見せてきます。
音を出しているのに無視されて怒ったのでしょうか。