蛙の化けもん (かえるのばけもん)


昔、延利に富豪の家があり、そこで働く使用人の女がいた。この女は顔立ちがよく働き者で、皆から好かれていた。
しかしこの女はほとんど喋らず、盆正月にも実家に帰ることもなかったので、どこの生まれなのか誰も知らなかった。

ある年の盆、珍しく女が「祖父の初盆なので実家に帰らせてほしい」と言ってきた。家の旦那は快諾して休暇を与えた。
旦那は前々から女の出自を知りたがっていたので、この機会にと密かに彼女の後をつけて行った。
女は峠を越え、山奥の谷へと進んでいく。
「こんな所に家なんてあっただろうか」不思議に思いながら旦那はついて行った。
だが、曲がり角で女を見失ってしまった。辺りを捜してみてもどこにもいない。
ふと道の下を見ると、田圃に沢山の蛙が集まって騒々しく鳴いている。
その鳴き声があまりにうるさかったので、旦那は石を田圃に投げ込んだ。
石が蛙の集団に当たったかと思うと、あれだけ騒がしかった声がピタリと止んだ。
旦那は女を追うことを諦め、家に戻った。このことは誰にも言わなかった。

そして盆が終わり、女が戻ってきた。
女は「実家に帰り法事をしていたら、突然どこからか大きな石が降ってきて、それが和尚の頭に当たって死んでしまった。その葬式や後始末に追われ、戻るのが遅くなってしまった」と謝った。
この話を聞いた旦那は、女が突然消えたこと、蛙の集まりに石を投げたこと、ピタリと鳴き声が止んだことなどを思い出し、まさか彼女は“蛙の化けもん”ではないかと考えた。
その夜、女は挨拶もなしに家から姿を消した。やはり彼女は蛙の化けもんだったのである。

『季刊 民話 1975冬 創刊号』「奥丹後物語 草稿」より


蛙社会にもコミュニティや役職があり、更に盆行事などの風習まであるというのは面白い世界観ですね。
しかし、わざわざ人間に化けてまで働きに出た理由は何だったんでしょう。