狭間峠の怨念 (はざまとうげのおんねん)


昔、狭間峠で起こった話である。
梅雨時のある夜、一組の父娘が狭間峠を通っていた。
時刻は午前二時を過ぎており、提灯の灯り以外辺りは真っ暗闇である。
二人は少しでも早く峠を抜けようと、息を切らせながら一心に歩を進めていた。
その時、どこからか「ウーン、ウーン」と妙な呻き声が聞こえてきた。
父娘が暗闇を見つめると、「ウーン、ウーン」という断末魔のような唸りと共に「あいつがぁ、あいつがぁ」と恨みの籠もった声が聞こえてきた。
父は五年前、この峠で強盗に殺された郵便配達員のことを思い出した。きっとこの声は、殺された郵便配達員の怨嗟の声に違いない。
二人は数珠を取り出し、奥にある池の方に向かって夢中で念仏を唱えたという。

この話は村人たちに伝わり、いつしか「狭間峠には幽霊が出る」と言われるようになった。
そこで村人たちは配達員の成仏を祈り、峠に地蔵を建立して祀った。それ以来、呻き声は聞こえなくなったという。

『福知山の民話と昔ばなし集』「狭間峠のおんねん」より


狭間峠は、現在は国道として交通量も多くやかましい賑やかな所ですが、この話の時代(大正の頃?)は街灯一つ無い淋しい峠道だったんでしょうね。