真夜中の足音 (まよなかのあしおと)


美山町の芦生演習林には、大正時代に建てられた木造の職員事務所がある。

昔、一人の職員がこの建物で宿直をしていた。
夜も更け、職員が二階の宿直室に入って寝ようとすると、誰かがトントンと足音を立てて階段を上がってくる。
「今頃、誰が来たのかな」
そう思いながら室内にいると、足音は廊下をスタスタと歩き、宿直室のドアの前でピタリと止まった。
そのまま待っていても、一向にドアを開ける気配がない。「どうぞ」と声をかけても返事がない。
不思議に思いドアを開けてみるが、部屋の外には誰もいなかった。
その時、職員は気がついた。
「宿直室に入る前に、事務所の窓も入口の扉も全部、内側からから鍵をかけたはずだ」
全て施錠されているのに、外から人が入って来られるはずがない。では、今の足音は何だったのか。

そんなことが何度か続き、やがて事務所では宿直をしなくなったのだという。

『京都の秘境・芦生』「6 山の不思議と謎の動物」より


後年出版された『山の怪奇 百物語』によると、この足音は
「かつて詐欺師に財産を騙し取られて自殺した富豪の亡霊のものである」
とのこと。