大江山洞穴の怪異 (おおえやまどうけつのかいい)


福知山に住む坂口某という侍は、時々同年代の友人たちと集まって談話をしていた。
ある日の夜、友人から「大江山の洞穴は、夜に入れば怪しいことが起こるらしい」という話を聞いた坂口は「面白そうなので近々見に行って来よう」と言ったところ、皆に止められてしまった。
しかし坂口は諦めず、女房に「外へ出て来る」とだけ伝え、密かに大江山の洞穴へ向かった。
洞穴の入り口は狭かったが、十間(約1.8m)程進むと次第に広くなっていった。更に二町(約220m)余り進むと、石の灯台が間隔を空けて設えてあった。
洞穴内は薄暗く、天井からは雫が垂れ落ち、生臭い冷風が吹いてくる。我慢しながら四~五町(約440~540m)歩くと明るい場所に出たので、そこで休憩することにした。
すると、そばの石の上に沢瀉紋(おもだかもん)の蒔絵が浮き彫りされた挿し櫛が置いてあることに気づいた。
流石に寒気がしたので、その櫛を懐に入れ引き返すことにした。
戻り道には、来た時にはなかったはずの笄や香箱などが落ちていた。何故かこれらを見たことがあるような気がして、全て拾って行った。
あと少しで洞穴の入り口という所まで来た時、今斬られたばかりと見える女の生首が、道の真ん中に置かれていた。よく見ると、自分の女房の首だった。
坂口は驚き、生首を持って自宅の前まで戻った。外から家の中を覗くと、女房が普段と変わらず針仕事をしている。
改めて手に提げた首を見ると、それは大きな自然薯だった。
坂口は洞穴の話を女房に語り、拾った櫛などを見せた。それらは長持に入れてあった女房の私物だったという。

『新説百物語』「坂口氏大江山へ行きし事」より