狸の祝言 (たぬきのしゅうげん)
昔、丹波のかめ山に宇都宮小兵衛という百姓がいた。
小兵衛には四人の娘がいて、末妹だけが未婚だったため、隣人の仲介で見合いをすることになった。
見合い日の数日前、仲人が来て「見合いの日にちを早めて欲しい」と頼むので小兵衛は了承した。
見合い当日、仲人が婿をはじめ客人たちを連れてやって来た。婿たちは多くの進物を座敷に並べ、やがて宴が始まった。
夜になり、遠方に住む姉夫婦が遅れて到着した。彼女は夜道で「まよいの物(妖怪?)」に出遭わないようにと、卒塔婆の杖を持ってきていた。
姉はまず婿を見てみようと家の裏へ回り、窓から杖ですだれを上げて覗いてみると、そこには毛の禿げた古狸たちが座り、家族と酒盛りをしていた。
不思議に思い、夫を呼んで見せるが「人間だろ」と言う。しかし姉の目には古狸にしか見えない。加えて、座敷に並べられた進物は全て牛馬の骨に見える。
姉はふと思いつき、夫に卒塔婆の杖を渡し、それですだれを上げて座敷を見るように仕向けた。
すると、夫の目にも座敷の婿や客人たちが古狸に見えるようになった。
すると、夫の目にも座敷の婿や客人たちが古狸に見えるようになった。
驚いた夫は相婿(姉妹の夫)を呼んで事情を説明した後、家の全ての門戸や窓を塞いで逃げられないようにした。
そして姉の夫は何食わぬ顔で座敷へ上がると、「婿殿の杯を下さい」と言って婿のそばへ近寄り、その腕を掴んで押さえつけ「お前は憎い奴だ」と叫んだ。
そして姉の夫は何食わぬ顔で座敷へ上がると、「婿殿の杯を下さい」と言って婿のそばへ近寄り、その腕を掴んで押さえつけ「お前は憎い奴だ」と叫んだ。
これを見た客人や仲人は「どういうことだ。狼藉を」と騒いだが、その間に相婿が客人に襲いかかり脇差で刺し殺した。
小兵衛とその妻の「気が狂ったか」という叫びも聞き入れず、相婿は他の客人にも斬りかかった。
客人たちは「私たちは人間です。許して下さい」と言って縁の下や窓から逃げようとしたが、全員斬り殺されてしまった。
その死体を見ると、皆古狸の姿に変わっていた。狸の正体を見破れたのは、卒塔婆の杖の奇特であるという。
翌日、末妹は本物の婿と祝言を挙げた。
『諸国百物語』「狸のしうげんの事付タリ卒都婆の杖の奇特」より
正体が狸とはいえ、逃げ惑う人々をためらいなく斬り殺していく相婿の冷徹さが地味に怖い。
伝承地:亀岡市(場所不明)
伝承地:亀岡市(場所不明)