海の亡霊 ②(うみのぼうれい に)


ある時、平田の仁助という老人が経ヶ岬まで漁に出かけた。
仕掛けに魚がかかる間、仁助は船上でうたた寝を始めた。
すると突然船尾が傾き、「仁や、仁」と自分を呼ぶ声がする。
驚いて振り向くと、髭だらけの痩せた男が船の縁に掴まっていた。
「お前は生きている者か? 死んでいる者か?」
仁助が尋ねると、男は消えてしまった。
「それは海で亡くなった人の亡霊が助けを求めて船に上がって来たのではないか」
家に帰った仁助から話を聞いた妻はそう答えたという。

以来、漁師たちは海に出る時は必ず刃物を持って出るようになった。それで亡霊の髭を剃ってやるためだという。
また、亡霊が出た時は「連れて帰ってやる」と言って、細い稲藁縄を体に結んで船で引っ張ればいいという。
そうすると、途中で自然に縄が切れて亡霊は離れるため、難を逃れられるという。

『語りによる日本の民話10  丹後 伊根の民話』「海の亡霊(一)」より