鬼面の怪獣 (きめんのかいじゅう)*
遥か昔、与保呂は比叡山延暦寺の所領だった。
当時、与保呂は荒れた山野で野獣が田畑を荒らし回っていたため、開拓者たちは小屋を建て毎晩交代で見張っていた。
ある夜、老人が弓矢を持って小屋で見張っていると、彼の老妻が「延暦寺からの手紙を持ってきた」と走ってきた。
唐突なことに怪しんだ老人は、老婆目がけて矢を放った。
だが老妻は手にした鉄の茶釜の蓋で矢を防いだ。
老人は次々と矢を放つが、全て巧みに受け流され、遂に最後の一本となった。
老人は「残念ながら、これでおしまい」と叫び、撃つふりをして矢を左手に握った。
すると老婆は怪獣に変化し、鬼面をそばだてて老人に飛びかかってきた。
その瞬間、老人は隠し持った矢を怪獣に突き刺し、退治したという。
この出来事は「射矢の神事」として毎年三月九日に薬師堂で行われていたが、現在は途絶えてしまっている。
『舞鶴の民話 第二集』「射矢の神事(与保呂)」より