落合の緋鯉 (おちあいのひごい)
昔、和田の殿様が、名人と謳われる職人に鎧櫃を作るよう命じた。
名人は、佐治川と篠山川が合流する「落合の淵」に立派な桐の巨木を見つけ、鎧櫃の材料にしようと考えた。
するとその夜、名人の枕元に白髪の老人が現れた。
「私は落合の淵に棲む緋鯉で、あの桐は私の生命の樹です。桐を伐られれば私は死んでしまいますが、悲しくはありません。ただ、私は落合の水面に腹を見せて浮かぶでしょう。どうか落合の淵の主にふさわしいように葬って下さい」
名人が手厚く弔うことを誓うと、老人は忽然と姿を消した。
そして翌日、名人が桐を伐倒すると、落合の淵の水面に一丈(約3m)もの美しい緋鯉が腹を返して浮かび上がった。
名人は淵の主の命を絶ったことを悟り、約束通りその緋鯉を手厚く葬った。
その後、桐材は名人の手によって見事な鎧櫃になり、殿様の自慢の品となった。
鎧櫃の板目は鯉の切り身の模様そのものだったと言われているが、紛失して所在はわからなくなっている。
『山南町誌』「落合の緋鯉」より
伝承地:丹波市山南町井原