蛇池の青大将 (へびいけのあおだいしょう)*
昔、長田の善光寺には大勢の小僧がおり、中でも安念という小僧は美しい顔立ちで評判が良かった。
ある雨の夜、安念が物音に目を覚まし庭を見ると、茂みに美しい娘が立って手招きをしていた。
安念は吸い寄せられるように娘に抱きかかえられ、寺の近くにある古い泥池の中へ消えていった。
翌朝、青い顔で帰ってきた安念は、食事もとらず虚ろな目をして座り込んでいたが、夜が近づくにつれ落ち着きがなくなり、皆が寝静まった頃に寺を抜け出していった。
そして夜明けになると、以前よりも更にやつれた姿で帰ってくる。そんな日が何日も続いた。
「これは物の怪が憑いているに違いない」
そう考えた二人の小僧は、次の夜、寺を抜け出した安念の後をつけて古池まで辿り着いた。
すると胴回りが湯飲み茶碗程もある大きな青大将が池から現れ、安念に巻き付いて愛しげに舐め回した。
安念を助けようと小僧たちが大きな石を投げつけると、石は蛇の眉間に当たり、噴き出した血で池は真っ赤に染まった。
青大将は鎌首をもたげて小僧たちを睨みつけ、苦しそうに池の底へ沈んでいった。
その夜以来、安念は夢から覚めたように元気を取り戻した。
だが数ヶ月後、寺の和尚は古池で眉間に傷のある大きな青大将に遭遇し、あまりの恐怖に悲鳴を上げて昏倒した。
それと同時にすさまじい音が鳴り響き、善光寺の本堂や鐘撞き堂が倒壊した。
更に庫裏から出火し、小僧たち諸共寺を焼き尽くしてしまった。
火事の犠牲者の中には、安念を救った二人の小僧もいたという。
その後、青大将は和尚によって池の底に封じ込められた。
それから池は「蛇池」と呼ばれるようになり、誰も近づかなくなったという。
また、この池に石を投げ入れると釣り鐘のような音が響き、投げた者はその場で死んでしまうという。
『福知山の民話と昔ばなし集』「蛇池」より
昭和九年(1934)刊の『郷土ものがたり 第一輯』にも同じ蛇池の話が載っていますが、こちらは朴念という粗暴な小僧が古池の大蛇に石を投げつけ、傷を負った大蛇が復讐に寺を破壊する……という、蛇側からアプローチをしてくるのではなく小僧が余計なことをして悪い結末を迎える展開になっています。(ちなみに朴念は大蛇に丸呑みされる)
蛇池は長田の六人部小学校の西側にあったそうですが、現在は埋め立てられて住宅地となっています。
伝承地:福知山市長田砂子町付近