竜宮の乙姫 (りゅうぐうのおとひめ)


昔、山田村に「小菊」という美少女がいたが、ある時、彼女は溝尻の漁村に住む「オト」という美男子に一目惚れした。
やがて二人は恋仲となり、小菊は足しげく溝尻に通って逢瀬を重ねていたが、その内にオトと会えない日が増えていった。
不思議に思う小菊の元に「オトは別の美女と恋仲になり、毎晩天橋立の濃松(あつまつ)で会っている」という噂が飛び込んできた。
小菊は噂の真相を確かめるために濃松で待ち伏せると、そこに素晴らしい美女が現れた。
怒り狂った小菊はこの恋敵を殺害しようと決意し、数日後、短刀を携えて再び濃松に向かった。
そして恋敵の女に襲いかかったが、女は竜に変身して小菊に火を吹きかけてきた。
それでも小菊は怯まず、髪を振り乱しながら竜と戦いを繰り広げた。

その頃、オトは溝尻の船小屋で待機していた。
噂の通り、オトは小菊を捨てて件の美女と恋仲になっており、今夜も濃松で会う手筈になっていた。
二人が出会う方法は、まず女が文殊にある竜灯の松に灯りをともして合図し、それを見たオトが舟で濃松に向かい、そこで合流するというものだった。
だが竜灯の松に灯りが点いたものの、急な雷雨に見舞われてしまい、オトは濃松に行くことが出来ずにいた。
そんな時、ふと対岸の濃松辺りを見ると、そこには火を吹く竜、そして短刀を振るって戦う小菊の姿があった。
その光景を見たオトはとても濃松に行く気になれず、家に逃げ帰った。

翌朝、濃松の浜辺で、血塗れの小菊の死体が発見された。
オトは小菊の死を悲しみ、竜灯の松の近くにある大岩から海へ身を投げて(または松で首を吊って)死んだという。
そして小菊と戦った竜は、竜宮の乙姫だったと言われている。

『みやづの昔話 -北部編-』「竜灯の松」より


本文で竜宮の乙姫とされている美女ですが、文中での名称が「大蛇」or「竜」と表記が統一されていなかったので、当ブログでは「竜」表記でまとめました(参考文献にあった挿絵も竜だったので)。
ちなみにオトと乙姫が逢引場所にしていた天橋立の濃松は“橋立小女郎”という女狐の棲み家だと言われています。
家の近くでバトルされて橋立小女郎もいい迷惑だったのでは。


伝承地:宮津市文殊・天橋立