人鬼 (ひとおに)


丹波国の野々口に与次という八十歳過ぎの男が住んでいた。
彼の祖母は若い頃からわがままで恥知らずだったが、百六十歳を越えたあたりで尼になった。
与次には多くの子や孫がいたが、祖母は彼を孫として扱い、気に入らないことがあれば子供に教え諭すように叱ることもあった。
祖母は年老いても目や耳が良く、歯は九十歳の頃に全て抜け落ちたが、百歳になると再び生えてきたという。
この祖母は日中は家で麻を紡ぎ、夜はどこかへ出かけていた。
怪しんだ子や孫が後を追うと、祖母は振り返って大声で叱りつけ、杖を突きながら飛ぶように早く歩いて姿を眩ませた。
祖母の体は痩せこけて骨が浮き、目は白目が碧色に変色し、ほぼ食事を摂らないのに気性は若者でも敵わない程だった。
ある時、祖母は孫たちに「私の留守中は部屋の戸を開けるな。窓から部屋を覗くな。もしこれを破ったら恨む」と言って日中に出かけて行った。
だが祖母は夜になっても帰らなかったので、与次の末子が酒に酔った勢いで彼女の部屋を覗いた。
すると中には犬の頭、鶏の羽根、赤子の手首、人の頭蓋骨や手足の骨が竹垣に幾つも積み重ねられていた。
驚いた末子は与次に告げ、皆でどうするか相談しているところへ祖母が帰ってきた。
祖母は部屋の戸が開いているのを見て激怒し、両目を丸く見開いて輝かせ、声を震わせながらどこかへ走り去った。
その後、ある木樵が大江山(福知山市大江町)でこの祖母に出会ったが、その時の彼女は白地の帷子の両端を帯に挟み、杖を突きながら飛ぶような速さで山を登っていた。
そして木樵は祖母が猪を捕まえて押さえつけたのを見て、恐ろしくなって逃げ帰ったという。
祖母は生きながら鬼になったのだという。

『伽婢子』巻九の四「人鬼」より


亀岡市にも鬼になった性悪男の話があります。こちらは鬼のコスプレですが。


伝承地:南丹市園部町(野々口の正確な位置は不明。現在の園部町中心部?)