庵那寺の人喰い狸 (あんなじのひとくいだぬき)*
昔、西谷の山奥の庵那寺という寺に、庵主が一人で住んでいた。
ある時、世話役の茂兵衛という男が、庵那寺に食料を届けに来た。
庵主は荷物にあったよもぎのぼた餅を喜んで食べながら「最近、夜になると川向かいの塚辺りから、ブンブンと綿を打つ音やドスンドスンと大木を伐り倒す音が聞こえる」と話した。
茂兵衛は「それは古狸の仕業だ。庵主を化かして丸ごと喰おうと、近くまで来ているのだ」と脅かした。
数日後、茂兵衛は利助という若者と共に、食料を持って再び寺に向かった。
だが庵主は笑顔も見せず、薄暗い台所の奥に座ったままだった。
茂兵衛は不思議に思いながら囲炉裏端を見ると、前に持って来たよもぎのぼた餅の重箱が散乱していた。
それを見た茂兵衛は狸が庵主に化けていることに気づき、囲炉裏の火箸を投げつけた。
すると庵主は「キャン、キャン」と悲鳴を上げて逃げ出した。その着物の裾からは狸の太い尾が覗いていた。
続いて利助が天秤棒で殴りつけたが、狸は谷に逃げ込んで姿を隠してしまった。
茂兵衛たちは狸の餌食になった庵主の死を悼み、遺骸を川向かいの塚に葬った。
その後、廃寺となった庵那寺は「庵那屋敷」、庵主を埋めた塚は「塚谷」、狸が逃げた谷は「抜谷」と呼ばれるようになった。
『京北の昔がたり』「庵那屋敷」より
伝承地:京都市右京区京北柏原町西谷