奥野々坂の狸 (おくののさかのたぬき)


昔、奥野々坂には狸が多く棲んでいて、人を騙すと言われていた。
ある日、大部谷村の金さんという男が谷川(山南町)へ法事に行った帰り、ご馳走を持って夜の奥野々坂を歩いていた。
だが金さんは提灯を忘れてしまい、真っ暗な山道を手探りで歩いていた。
するとあちこちに灯りがつき、その灯は「こっちへ来い」と手招きしているように見えた。
灯に吸い寄せられるように近づいて行くと、いつの間にか坂を登り詰め、遠くに大部谷村の灯りが見える所まで来ていた。
だがその途端、金さんを誘っていた灯は消えた。
そこで金さんは一旦休憩をとったが、微かに笛太鼓の音が聞こえてきたので、音のする方へ向かった。
すると大勢の男女や子供たちが輪を作り、笛太鼓の囃子に合わせて楽しげに踊っていた。
元来踊りが好きな金さんは、我を忘れてその輪の中に入り踊り続けた。
やがて踊り疲れて眠ってしまい、目を覚ました時には既に太陽が登っていた。
辺りには誰もおらず、着物は泥だらけ、そして土産のご馳走は空になっていた。
近くの田圃を見渡すと、獣の足跡が沢山ついていたという。

『柏原の民話とうた』「奥野々坂の狸」より


伝承地:丹波市柏原町下小倉~山南町奥野々・奥野々坂(トンネル開通後、奥野々坂は廃道になっている)