六兵衛屋敷の桜 (ろくべえやしきのさくら)


昔、加悦の六兵衛という男が金剛寺の娘を嫁にもらった。
六兵衛は妻を愛し、また仕事に励んだため、いつしか「六兵衛屋敷」と呼ばれる程の立派な屋敷に住む長者になった。
ところがある時妻が病死し、悲しんだ六兵衛は死体を屋敷の庭に埋め、彼女が好きだった桜の木を植えた。
やがて桜は生長し、村人たちも「この桜は亡くなった奥さんに似て美しい」と噂するようになった。
同じ頃、金剛寺の住職もまた娘を失った悲しみに暮れていたが、この桜の噂を聞き、六兵衛に頼んで譲ってもらった。
寺に移された後、桜は満開の花を咲かせたが、強風に煽られ一夜の内に散ってしまった。
住職はその時、「六兵衛屋敷へ帰りたい」と泣いて訴える女の声を聞き、亡き娘の思いを汲んで桜を六兵衛屋敷に戻した。
それ以来、この桜の花が散り始める時には、花びらに六兵衛の妻の顔が浮かび出るようになったという。

『京都 丹波・丹後の伝説』「六兵衛屋敷のサクラ」より


花びらに亡き妻の顔が浮かぶ……切ないけどロマンチックですね。
また『加悦町誌』には「六兵衛屋敷の屋敷跡にある庭石を金剛寺に持ち込んだところ、毎晩住持の夢に庭石が現れ「六兵衛屋敷に帰りたい」と泣くので屋敷に戻して埋めた」という、桜ではなく石が泣く話が載せられています。
ちなみに六兵衛の家は明治時代に没落したそうです。盛者必衰。

その他の「帰りたい」と訴える石や像のお話。


伝承地:与謝野町与謝(六兵衛屋敷の位置は不明)