愛宕山の火の神 (あたごやまのひのかみ)
龍蔵寺の奥の愛宕山には火の神が住んでおり、火事の時はこの神に消火を願えば叶えてくれるという。
ただし願をかけた後は、三年の内に愛宕の神にお礼参りをする決まりになっている。
①
ある時、権兵衛という男の家で火事が起こり、愛宕山の火の神に願って火を消してもらった。
それから三年後のある日、また権兵衛の家が火事になった。
その時、権兵衛は前回の火事の願すまし(お礼参り)をしていないことを思い出し、「次は忘れずに願すましするので火を消して下さい」と願うと火は消えた。
だが権兵衛はその後も願すましをせず、更に四年が過ぎた。
ある夜、権兵衛はふと願すましのことを思い出し、早速愛宕山へ登った。
その途中で一旦休憩し、煙草を吸おうとしたが火打石が見当たらない。
するとそこへ火縄を持った坊主が現れたので、権兵衛は火を貸してほしいと頼んだ。
だが坊主は「この火は貸せない。これからこの火でお前の家を焼くんだからな」と言い、「いくら苦しい時の神頼みとはいえ、あの態度ではな」と続けた。
権兵衛が必死に謝ると、坊主は「それなら早く参って来い。ならば焼くのは家の棟だけで許してやる」と言い残し、山を下りて行った。
権兵衛は急いで山を駆け登って願すましをしたが、その時、村の方から一瞬だけ火の手が上がった。
慌てて家に戻ると、権兵衛の家の棟だけが焼けていた。
あの坊主は愛宕の神だったのだと気づき、それから権兵衛は必ず約束を守るようになったという。(『たんなんの民話と伝説』)
②
ある年の冬、城南村の太助という百姓が刈り取った茅に火を点けた。
すると火は強風に煽られ、みるみるうちに山へ燃え広がった。
その時、どこからともなく一頭の馬が現れ「今から愛宕さんに行って火が消えるよう頼んでやる。願いが叶ったら百日の間に愛宕さんへ恩送り(お礼参り)をしろ」と言って山へ駆けて行った。
しばらくすると火が消えたので、太助は愛宕の神に感謝し、田植えが落ち着いたら必ず恩送りに行くと誓った。
だが太助は田植えを終えても一向に恩送りをせず、いつの間にか百日が過ぎた。
ある日、太助が田圃の畔で休んでいると、どこからか「もう落ち着いたか」という声が聞こえた。
辺りを見回したが誰もいなかったので、太助は空耳だと思い家に帰った。
そして竈の火を点けようとしたが、何故かどうやっても点かない。
太助が腹を立てていると、一匹の鼠が現れ「馬との約束はどうした。恩送りはどうした」と何度も繰り返した。
太助はそこでようやく恩送りのことを思い出し、急いで愛宕山に参ったという。(『丹波のむかしばなし 第七集』)
『たんなんの民話と伝説』「愛宕(あたご)さんの火縄」
『丹波のむかしばなし 第七集』「太助の恩送り」より
年に一度家を燃やして喜ぶ愛宕の神。
伝承地:丹波篠山市真南条上