人角 (ひとづの)


昔、葛野に「いつもり長者」という長者がいた。
長者は人格者で慈善家でもあったため、人々から崇敬されており、何不自由ない幸福な生活を送っていた。
そんなある日、彼の愛娘の頭から二本の角が生えてきた。
長者は大変驚き、手を尽くして治療したが効果はなく、「角を生やした鬼女」の噂は世間に広まっていった。
最早神仏に縋る他ないと考え、長者は朝夕欠かさず岩船神社に参詣し、祈りを捧げ続けた。
すると三年後、岩船神社の神が長者の夢枕に立ち、「お前の願いを聞き届けよう。だが私の力では角は一本しか落とせない。もう一本は観音に願うがいい」と告げた。
それから長者は上野の寺に朝も夕も参詣し、観音像に願をかけ続けた。
そして更に三年が過ぎた頃、長者の願いが通じ、娘の角は綺麗に抜け落ちたという。

『熊野郡伝説史』「人角(湊村)」より


岩船神社
久美浜町葛野の岩船神社。
長者の娘から抜け落ちた角は、岩船神社と中性院(網野町木津)に片方ずつ保管されていましたが、寺の角は火事で焼失してしまいました。
もう片方の角は今も岩船神社に保管されているそうです。見てみたい……。

ちなみに『ふるさとのむかし 伝説と史話』によると、長者の娘は「さよ」という名前で、角が落ちた所は「さよが鼻(さいが端)」と呼ばれています。

また、岩船神社には人角の他、謎の島から持ち帰った不思議な貝も社宝として保管されているそうです。


伝承地:京丹後市久美浜町葛野