阿草の石仏 (あくさのいしぼとけ)


ある年の夏、阿草村はひどい旱魃に見舞われた。
そんな中、旅の僧たちが村を訪れ、田圃の畔で昼飯を食べていた五へい親子に食事を分けてもらった。
僧たちは五へい親子に感謝し、「恩返しに何か願いを叶えたい」と持ちかけた。
そこで五へいが「田圃に水が欲しい」と願うと、僧たちはあちこちに散らばり、やがて僧の一人が石仏を抱えて戻って来た。
僧は五へいの田圃の畔に石仏を祀り、「この仏の足先を擦れば水が湧き出ます」と言ってどこかへ立ち去った。
五へいは半信半疑で石仏の足先を擦ると、そこから綺麗な水が湧き出し、田圃はあっという間に水で満たされた。
それを見た他の村人も、五へいから石仏を借り受けて田圃に水を張り、やがて阿草村の全ての田圃が水で満たされた。
すると、石仏の噂を聞いた峠向こうの村人たちが、夜に阿草村へ忍び込み、石仏を盗んで村に持ち帰った。
そして山裾に祀り、石仏の足先を擦ったが、何故か一滴の水も出なかった。
どれだけ擦っても水は出ず、怒った村人たちは鍬や棒で石仏を叩き壊そうとした。
するとその時、「コラッ、バカモノタチ、ミズガホシケリャダシテヤル……」という声が聞こえ、石仏の足先からどんどん水が湧き出て、村は水浸しになった。
そこで村人たちは石仏に謝罪し、阿草村に戻したという。
阿草村はその後も水に困ることはなかったが、ある年に起こった大水で、石仏はどこかへ流されてしまったという。

『丹波のむかしばなし 第三集』「あくさの石ぼとけ」より


伝承地:丹波市山南町阿草