貝坂 (かいざか)


昔、丹波国の人が若狭の汐水を汲んで壺に入れ、丹波国と若狭国の境の上林峠を歩いていた。
その時、何かに躓いて転び、壺が割れて汐水が流れ出てしまった。
すると、その汐水が白浪を立てて押し寄せ、峠は一面海と化した。
やがて浪風は治まったが、その人は驚いて逃げ帰り、それからは汐水を持って峠を通ることはなくなったという。
上林峠は、今でも土中から沢山の貝殻が出るため、“貝坂”と呼ばれている。

『高浜町誌』「貝坂」より


上林峠は京都府綾部市老富町と福井県高浜町の府県境にあった峠道です。
かつては「大飯郡道」として人の往来が盛んで、大正時代に廃道となった後も、昭和四十年頃まで奥上林(老富町)の人々が利用していたそうです。

また、上林峠には貝坂の伝説の他、狐に化かされた女性の話も伝えられています。

昭和の頃、市茅野(老富町)の女性が日暮れに上林峠を歩いて家に帰っていると、上手の方から「おーい」と夫の呼ぶ声がした。
だがいつまで経っても出会えず、峠を越えて家に帰ると、夫はその日、具合が悪く一日中寝込んでいたという。
女性はいなり寿司の折り詰めを持っていたので、それを狙って狐が化かそうとしたのだという。
もし峠で休憩していたら、狐にどこかへ連れ去られてしまったに違いない、と女性は語ったという。(『新わかさ探訪』)


伝承地:綾部市老富町-福井県高浜町関屋・上林峠(現在は廃道)