お堂の古狸 (おどうのふるだぬき)


昔、斎藤左衛門尉助康という侍が、丹波国へ行って狩りをしていた。
その内に日が暮れてしまったので、助康一行は近くにあった古いお堂で一夜を過ごそうと考えた。
するとこの辺りの事情に詳しい者が、「このお堂には人を襲って取り殺す妖怪がいると聞きました。そんな所に用心もなく気易く泊まるのはいかがなものか」と忠告したが、助康は「何の心配もない」と言ってお堂に泊まった。
やがて雪が降り出し、風も吹き始め、辺りは気味の悪い雰囲気に包まれた。
助康は柱にもたれかかって休んでいたが、ふと庭の方から何かが近づいて来る気配を感じ、障子の破れ目から素早く外を窺った。
外には、お堂の軒と同じくらいの背丈の大きな法師が立っていた。
だが黒々とした輪郭が見えるだけで、その姿ははっきりと視認出来なかった。
すると法師は、障子の破れ目から毛むくじゃらの細い腕をさし入れ、助康の顔を撫でた。
助康が座り直すと腕は引っ込んだが、しばらくするとまた同じように障子の破れ目から細腕をさし入れ、助康の顔を何度も撫で回した。
そこで助康はその腕を掴み、障子を引き外して広庇へ出ると、法師の上に馬乗りになった。
法師は軒と同じ高さに見えたが、今は随分と小さくなり、掴んだ腕も細くなっていた。
そのまま押さえつけると、法師はか細い声で泣き始めたので、下人に灯りを点けさせて正体を確かめたところ、それは一匹の古狸だった。
助康は「朝になったら村人たちに見せてやろう」と思い、その古狸を下人に預けて眠った。
ところがどうしようもないことに、下人は古狸を焼いて食べてしまい、助康が起きた頃には頭しか残っていなかった。
体がなくなってしまったので、助康は残された古狸の頭を村人たちに見せた。
それ以来、お堂に人を取る妖怪は出なくなったという。

『古今著聞集』巻第十七「斎藤助康、丹波国へ下向し古狸を生捕る事」より


伝承地:丹波のどこか(場所不明)