周枳峠の化け物 (すきとうげのばけもの)*
昔、夜な夜な周枳峠に化け物が出て、通行人を山の上へ連れて行ったり、谷底に落としたりして惑わしていた。
そこで峰山の殿様が化け物退治の御触れを出したところ、権兵衛という男がその役目を引き受けた。
ある夜、権兵衛は周枳峠へ向かい、近くの松の木に登って化け物が現れるのを待っていた。
すると深夜になった頃、木の下から「権兵衛さん、お前の母が急病になった。『権兵衛に会いたい』と言っているから早く戻ってやれ」と何者かの声がした。
権兵衛が耳を貸さずにいると、声は「お前が意地を張って帰らないから母は死んでしまった。母は『私の死体は権兵衛がいる松の木の下に埋めてくれ』と言い残したので、ここに埋めるぞ」と告げた。
そこで権兵衛が「そうしてくれ」と答えると、葬式の列が来て、木の下に白装束姿の母の死体を埋めて帰って行った。
すると埋めた土の中から、髪を振り乱した母の死体が起き上がり、「権兵衛、私が死んだのに何故戻って来ない」と言って木を登ってきた。
権兵衛は木の上へ上へと逃げたが、やがて一番上まで追い詰められ、母の死体に足を掴まれそうになった。
だがその瞬間、権兵衛は腰にさしていた刀を抜き、母の死体を滅多斬りにした。
すると母の死体は「ギヤァッ」と悲鳴を上げて木から落ちた。
そして夜が明け、様子を見に来た村の庄屋たちが木の下を確認すると、古狸が血塗れになって死んでいたという。
『おおみやの民話』「権兵衛の化物退治(一)」より
このタイプの話は徳島県の「幽霊狸」(『阿波の狸の話』に掲載)をはじめ各地に見られます。
丹後地方では本文の京丹後市大宮町の他、同市弥栄町、宮津市などに類話があります。
話の展開は、勇敢な男が巷を騒がす化け物を退治しに出没地へ行く→木に登って待っていると下から何者かに「お前の家の○○が死にそう」と声をかけられる→無視していると「○○が死んだぞ」と追加報告され、その死体が入った棺が木の下に埋められる(または置いていかれる)→棺から死体が這い出し、木に登って男を襲いかかるも返り討ちに遭い落下する→翌朝に木の下を見ると古狸が死んでいる(正体不明のパターンもあり)……というもので、どれも本文とだいたい同じ流れになっています。
伝承地:京丹後市大宮町周枳