化けもん岩の娘 (ばけもんいわのむすめ)


昔、小原田に川戸勘左右衛門という猟師がおり、毎日奥山という山へ行って猪狩りをしていた。
ある日の夜明け前、勘左右衛門は奥山へ入り、「きとくがはな」という所へ行った。
すると「化けもん岩」と呼ばれる大岩の前で、十七・八歳の娘が行灯を灯し、ホヤホヤと笑いながら髪を結っていた。
勘左右衛門は化け物だと思い、娘を狙って鉄砲を撃つと、行灯の火が消えた。
だがしばらくするとまた行灯が灯り、先程と同じように娘が髪を結っていた。
そこで「化け物の正体は火だ」ということを思い出し、今度は行灯を狙って撃ったところ、火も娘も消え、再び灯ることはなかった。
翌日、勘左右衛門は夜が明けてから奥山へ入り、頂上辺りにある「おんたこんた」という池に向かった。
すると化けもん岩の所にいた娘が、足元まである髪を振り乱しながら池で泳いでいた。
勘左右衛門は「あれは昨夜の化け物に違いない。あれを撃ったらわしの命がないだろう」と考え、その日限りで猟を辞めたという。

また、川戸勘左右衛門には男児と女児の二人の子供がいたが、彼らは不思議な力を持っていたという。
勘左右衛門が山で雄の獣を撃てば、撃った時刻に男児が「きゃあ」と声を上げ、雌の獣を撃てば同じ時刻に女児が「きゃあ」と声を上げる。
そのため、子供の声を聞いた妻は「今日は主人が雄(雌)の獣を獲って帰って来る」と、その日の獲物を事前に知ることが出来たという。

『大江のむかしばなし』「鉄砲の印可と弓の印可」より


これは『日本昔話大成』で言うところの「山姥の糸車」タイプの話(糸車を回す怪しい老婆が現れたので鉄砲を撃ったが効かず、そばにある行灯を撃ったら正体は狐狸の類だったというもの)で、山梨県や秋田県など各地に類話が伝えられています。
ただ、この化けもん岩の娘は本体(と思われる)の行灯を撃っても死なず、翌日には池で元気に泳いでいます。タフネス。


ちなみに、本文に登場する川戸勘左右衛門は鉄砲の名人だったと言われていますが、参考資料にその腕前がわかるエピソードが載っています。
小原田には勘左右衛門の他に弓の名人の某がおり、ある時、二人は通りすがりの娘を的にしてお互いの技術を見せ合うことにしました。
まず勘左右衛門が鉄砲で娘が頭にかけている掛け物を狙い撃って吹っ飛ばし、次に弓の名人が一本の矢で娘の履いている下駄の歯を四枚同時に射貫くという神業を披露したそうです。
確かにすごい腕前だけど、勝手に的にされた娘がかわいそうすぎる。


伝承地:福知山市大江町小原田