天狗さん (てんぐさん)
漆谷の分水嶺に近い山に、立て岩という岩がある。
その山の峰近くに二帖敷き程の台座があり、そこは「天狗さんの休憩所」と呼ばれている。
また、同じ谷の上の方に燈籠杉という木があり、そこにいつでも火が灯るという。
天狗さんは千本松という松から真向かいの立て岩へ行き、更にそこから燈籠杉へ回って遊んでいるという。
昔、加衛門という老人が、天狗さんにつままれて行方不明になった。
村人たちは鐘や太鼓を鳴らし、「加衛門返せ」と言いながら捜索すると、四日目に青ざめた顔の加衛門が帰って来た。
それから天狗さんは非常に恐れられたという。
ところがある時、木樵が千本松と燈籠杉を切ろうと考え、木にヨキ(斧)を打ち込んだ。
天狗さんの木を切る時は、打ち込んだヨキがそのまま木についていれば切っても良いが、ヨキがポオンと放り出されている場合は「天狗が放った」と言って切らないという。
すると翌日、打ち込んだヨキが放られていたので、木樵は「これは恐ろしい。こんなもの切ったらいかん」と思い、切るのを止めたという。
だがその後、別の木樵が「天狗もくそもあるもんか」と言って、燈籠杉を切ってしまった。
その木樵は燈籠杉を売って儲けたが、帰宅して間もなく死亡したという。
『伝承文芸 第十号 -丹波地方昔話集-』「天狗さんの話」より
伝承地:京都市右京区京北井戸町