柏原の天狗 (かいばらのてんぐ)
今回は丹波市柏原町に伝わる天狗の話を五つ紹介します。
①
挙田の崖の上に、天狗松という大きな松があった。
この松を切ると祟りがあると言われ、誰も手をつけなかった。
昔、この松に天狗が棲み、梢から由良の愛宕山(氷上町)目がけて飛んで行ったという。
②
北中の長助という猟師が山へ猪狩りに行った。
山中で猪を待ち構えていると、そばにあった六本の樅の木が大きな音を立てて揺れ出し、大蛇が現れた。
長助は驚き、大蛇目がけて鉄砲を撃ったところ、鼻の高さが30cmもある真っ赤な大きい顔の天狗が現れ、「こら長助、これ以上撃つならお前の命をもらうぞ。命が欲しけりゃとっとと消え失せろ」と怒鳴った。
長助は肝を潰し、転ぶようにして山を駆け下りたという。
③
沖田の杢助という男が山へ猟に行き、大きな鳥に鉄砲を向けて撃とうとした。
すると「こら待て」という怒鳴り声と共に天狗が現れ、杢助の鉄砲を掴み、見る間にへし曲げてしまった。
杢助はあまりの恐ろしさに飛んで帰った。
数日後、再びその山へ行ってみると、へし曲がった杢助の鉄砲が捨ててあったという。
④
三人の百姓が権現山の中腹に小屋を建て、泊まり込みで炭焼きをしていた。
ある日の夜、三人が小屋で夕食を食べていると、突然、獣の遠吠えのような唸り声が聞こえて来た。
一人で外に出るのは怖いと、三人は連れ立って小便をしに小屋を出ようとしたが、いきなり天狗が飛び込んで来て睨みつけた。
肝を潰し、腰を抜かして震える三人をよそに、天狗は小屋の真ん中に座り込み、睨みつけながら酒や握り飯を平らげた。
そして天狗は赤い顔を更に赤くして、三人を睨みつけたまま、ずっしずっしと小屋から出て行ったという。
⑤
江戸時代、柏原藩の家臣に、星合と滝という武術に優れた侍がいた。
だが禄高は滝の方が上だったので、星合は悔しがり、権現山に「力をお与え下さい」と願をかけ、毎晩山に登って槍の修行に励んだ。
そして二十一日目の満願の夜、星合が山頂で一心に祈っていると、大地が裂けるような轟音が響き、背の高い天狗がにょっきと現れた。
星合が槍を突きつけると、天狗はその穂先を掴んでげらげらと笑い「お前はなかなか勇気がある奴じゃ。日頃の熱心な修行に免じ、天狗の力を授けよう」と破れ鐘のような声で言い、空高く舞い上がって姿を消した。
星合は不思議に思いながら家に帰り、風呂に入って汗を流し、手拭いを絞った。
すると、手拭いはばりばりと音を立ててねじ切れてしまった。
仕方なく別の手拭いを出して同じように絞ったが、またもやねじ切れてしまったので、星合は「これは天狗が授けてくれた力に違いない」と言って喜んだ。
それから間もなく、星合と滝は藩の殿様の御前で試合をすることになった。
試合が始まり、互いに槍を交わした瞬間、星合は滝の槍を跳ね上げた。
すると、それ程強い力で跳ねたわけでもないのに、滝の槍は軽々と空に舞い上がった。
こうして星合は試合に勝ち、その後、滝を凌ぐ禄高を得たという。
『柏原の民話とうた』「天狗五話」より
荒っぽい天狗が多い。
伝承地:丹波市柏原町挙田、北中など

