丹波・丹後の妖怪あつめ

京都府北部(丹波・丹後地域)の怪異妖怪伝承を紹介するブログです。

妖怪

白無垢

白無垢 (しろむく)


昔、新宮の八郎という男が田圃で仕事をしていると、ふと鍬が石に当たったような音がした。
見ると、石の間に“白無垢”というものがいたので、八郎はそれを捕まえて持ち帰り、箱に入れて大事に飼った。
だが白無垢は次第に大きくなり、箱の中にいられなくなった。
すると白無垢が「出してくれ」と頼むので、八郎は可哀想になり箱から出してやった。
白無垢は「一月後の日暮れに小野坂の登り口に来てくれ。そこへ白馬に乗った侍が来るから棒で殴るのだ。そうすれば良いことがある。もし出来なくても、次に赤馬に乗った侍が来るからそれを殴るといい。それも駄目なら、最後に黒馬に乗った侍が来るからその時こそ殴れ」と言って、山へ帰っていった。
一月後の日暮れ、八郎が小野坂で待っていると、坂の上から白馬に乗った白い侍が下りてきた。
八郎はその侍を棒で殴りつけたが、間違って尻を叩いてしまい失敗した。
すると、次は赤馬に乗った赤い侍が下りてきたので、同じように棒で殴りつけたが、今度は早すぎて上手くいかなかった。
次に黒馬に乗った黒い侍が来たので、八郎が棒を横薙ぎに払うようにして殴ると、馬と侍はガチャガチャと崩れるような音を立てて転んだ。
八郎は一旦家に帰り、翌朝再び小野坂に行って確認すると、馬の形程の山になった穴明き銭が落ちていた。
白馬は小判、赤馬は銅貨(*)だったに違いないということだった。
そして八郎はその銭を得て幸せになったという。

『丹後の民話 第一集 いかがのはなし』「白無垢の思がえし(原文ママ)」より


(*)『おおみやの民話』では「銀貨」になっている。

白無垢がどういうものなのかはわかりませんが、恩を返してくれる心があるので少なくとも悪い存在ではなさそうです。
何となくケサランパサランっぽい要素も感じますね。
「白」「箱で飼う」「飼い主は幸せになる」などのキーワードからの連想ですが。


伝承地:京丹後市大宮町新宮


篠山の怪談七不思議

篠山の怪談七不思議 (ささやまのかいだんななふしぎ)


丹波篠山市の篠山城周辺(主に東側)には、七つの妖怪談が伝えられています。

①観音橋の夜泣榎
観音橋のそばに十二尺(約3.6m)程の古い榎があった。
夜にこの木の下を通ると、さも悲しげな声を出して泣くという。
特に雨の夜は泣き声が物凄かったが、切られて今は残っていない。

②土手裏のおちょぼ
観音寺前の小路を南に入って東へ向かい、京口橋までの間にある藪中の裏道を「土手裏」と言う。
夜にこの道を通ると、兀僧(がっそう)頭のおちょぼ(可愛らしい少女)に出会う。
このおちょぼに声をかけ、振り向いたその顔を見ると、目も鼻もないヅンベラボウ(のっぺらぼう)の顔が夜目にもはっきり見えるという。

③川ン丁の鼻黒
梅の小路の橋から川に沿って小川町までの「川ン丁」という所に出る怪物で、鼻の頭が黒い奴だという。
王地山の開帳の時は「砂持ちせん者鼻黒じゃ」とさかんに言われた。

④坪井屋敷のツルベ落し
坪井という旧士族の屋敷に榧の大木があり、夜に木の下を通ると生首が落ちてくるという。
だがこれは、髢(かもじ…ヘアエクステのようなもの)をつけた徳利を樹上に吊っておき、人が通れば縄を弛めて落とすという悪戯だった。
人為的なものだとわかるまでは「ツルベ落し」と呼ばれ、怪談の一つになっていた。

⑤田代の前
東の馬出の堀沿いにある田代家は、北向きの家なので前の道路が悪かったという。
「思うても田代の前は通るなよ昼はいてどけ夜は化物」という言葉が残されている。

⑥一本松の見越の入道
篠山鳳鳴高校の横に一本松が生えていた。
雨の夜に傘をさしてここを通ると、突然傘が重くなる。
見上げると、後ろから傘を越して大入道がゲラゲラと笑うという。

⑦番所橋の酒買い小僧
秋の終わり頃の雨がそぼ降る夜、妙福寺の東の小川に架かる番所橋を、三尺(約90cm)足らずの小僧が裸足で徳利を下げて通るという。
これに出遭うと体の中がゾクゾクして恐ろしくなり、小僧を見ると、顔の真ん中に丸い一つ目がピカピカと光っているという。

『多紀郷土史考 下巻』「篠山の怪談七不思議」より


③は名前だけで、どういう妖怪なのかよくわからないそうです。
ちなみに「砂持ちせん者鼻黒じゃ」という囃し言葉については『大阪伝承地誌集成』にその由来が書かれています。

寛政元年(1789)、大阪の玉造稲荷神社で砂持(川浚いで出た土砂を使い神社の土地を均す作業)という労働奉仕があった。
だが傘屋の息子は商売以外に関心がなく、砂持も不参加を決め込んだ。
近所の人々が熱心に誘うも全く応じず、腹を立てたある若者が墨を塗りつけた手を傘屋の息子の顔にベッタリとなすりつけた。
人々は鼻を墨で真っ黒にされた傘屋の息子を見て大笑いし、そこから「砂持ちせん者鼻黒じゃ」という囃し言葉が流行った……とのこと。


伝承地:丹波篠山市・篠山城周辺


さとりのわっぱ

さとりのわっぱ


昔、炭焼きの老人が小屋に泊まり込んで炭を焼いていた。
ある夜、綺麗な娘が小屋に来て「寒いから火に当たらせておくれ」と頼むので、老人は「いくらでも当たるといい」と言って受け入れた。
娘はそれから毎晩火に当たりに来たが、何故か顔を見ようとすると横を向くので、老人は『一度この娘の顔を見てやろう』と考えた。
すると娘は「私の顔に何かついているのか。それとも私の顔が見たいのか」と聞いてきた。
そこで老人は『この娘は人の心を読む化け物だろう。蛇の化け物か、獣の化け物か、正体を見てやろう』と考えた。
すると娘は「私を化け物だと思っているのか。私は蛇でも獣でもない」と、老人の考えを言い当てた。
不思議に思い、しばらく見ていると、娘の瞼が下から上に向かって閉じたので、老人は『正体は鳥だな』と考えたが、すぐに「私は鳥でもない」と否定された。
そして娘は「私の正体を当てられたら、いいところへ連れて行ってあげる」と言って、その後も小屋に通い続けた。
ある冬の夜、娘はいつものように小屋へ来て火に当たっていた。
寒いので木を火にくべていると、不意に火の中の葛がパシンと音を立てて爆ぜた。
娘は驚き、「わあっ、人間は思わんことをする」と言って逃げ出した。
それから娘が小屋に来ることはなかったという。

『おおみやの民話』「さとりのわっぱ」より


さとり(覚)は人の心を読むとされる妖怪で、日本各地の民話に見られます。
山小屋で火を焚いてる人の元に現れ、その人の心を読んで翻弄し取って喰おうとするも、予期せぬ出来事(焚き火の木が爆ぜて顔に当たるなど)にびっくりして逃げ出す……という感じの内容になっています。
鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』では、「飛騨や美濃の山奥に覚という猿のような妖怪がいる。色黒で毛が長く、人の言葉を話し人の心を読む。人に危害を加えることはないが、覚を殺そうとすれば先にその心を読んで逃げる」とあり、毛むくじゃらの猿っぽい妖怪が描かれています。
本文のさとりのわっぱ(童=子供の意)は美少女の姿で現れますが、老人が言い当てる前に逃げたので、結局その正体はわからずじまいです。
「獣ではない」と言っているので猿ではなさそう?
そして「正体を当てられたらいいところに連れて行ってくれる」という約束をしていましたが、一体どこへ連れて行くつもりだったんでしょう……?


伝承地:京丹後市大宮町善王寺


アズキアライ / ミズチ

アズキアライ / ミズチ


成生集落の漁協事務所の裏を流れる小川には“アズキアライ”と呼ばれる怪物がいるという。
そのため正月のキツネガリ行事の時、若衆はこの小川を走って渡ったという。
また湾内には“ミズチ”と呼ばれる怪物がいるという。

『民俗志林』第3号「アズキアライの伝承」より


伝承地:舞鶴市成生


五つ目の女


五つ目の女 (いつつめのおんな


昔、山城国宝寺(乙訓郡大山崎町)の下に鉄砲の得意な猟師が住んでいた。
その後猟師は山家(綾部市)に移住した。
ある日の朝、猟師は猪を取るために山へ入ると、山中で美しい女に出会った。
怪しんで後を追うと、女は小倉明神という社を巡って行った。
やがて女は振り返り、キッと猟師を睨みつけたかと思うと、その目が五つになった。
猟師は驚いて逃げ帰り、それからは猟をやめて農業に従事した。
だがそれまでの殺生の罪によってか、程なくして足腰が立たなくなり、二人の子供の内一人は早死にし、もう一人は皮膚病を患ったという。

『閑田次筆 巻之四』「雑話」より


伝承地:綾部市上原町付近?


日が奥の池の主

日が奥の池の主 (ひがおくのいけのぬし)


昔、春日部村に源助とおたきという夫婦が住んでいた。
だが夫婦には子供がおらず、阿陀岡神社に子授けの願をかけた。
すると間もなく子供が産まれたので、松吉と名づけ大事に育てた。
ところが七年が過ぎた頃、松吉は夜な夜などこかへ出かけるようになった。
源助は不思議に思い後をつけたが、松吉は日が奥という深い谷に入って行ったので、怖くなって一目散に逃げ帰った。
翌朝、夫婦が目を覚ますと、松吉はいつものように眠っていた。
そこで松吉を起こし、毎晩出かけている理由を問うと、「私は古くから日が奥の池に棲む主です。毎晩その池の水を飲まないと暑くて生きていけないのです」と答えた。
そして松吉は「長い間お世話になりました。私は日が奥に帰ります。御恩返しに滝を作り、その水を村に流しますのでどうか役立てて下さい」と言って姿を消した。
翌日、日が奥の谷の崖から一斉に水が流れ始め、大きな滝となった。
その滝の水は谷を通って村の隅々まで流れて行き、飲み水や田圃の用水として使われるようになったという。

『丹波のむかしばなし 第七集』「日が奥に滝ができた」より


池の主の正体は不明。


伝承地:丹波市春日町多利


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