ババメ


網野町下岡の落谷には“ババメ”という怪物(恐竜の一種らしい)が棲んでいた。
そのため、村では「落谷に行く時は必ず腰に鎌をさしていけ」と言われていた。

ある時、二人の村人が落谷に向かったところ、運悪くババメに見つかってしまった。
ババメはあっという間に一人を咥え込むと、上半身を振り上げて何度も地面に叩きつけた。
村人は地面が震えるほどの勢いで叩きつけられ、無惨に潰されてしまった。
ババメには歯がないので通常は獲物を丸呑みにするが、人間のように大きな獲物の場合は先に地面で叩き潰してから呑み込むという。
もう一人の村人は命からがら村へ逃げ帰り、ババメに襲われたことを告げた。
すると勇敢な若者がババメを退治しに、生き残った村人と共に落谷へ向かった。
ババメは二人を見つけると、勇敢な若者を丸呑みにした。
だが若者は鎌を腰にさしていたので、呑み込まれるにつれて刃がババメの喉の肉を切り裂いた。
もう一人の村人もババメの喉元を刃物で斬りつけた。
内と外から喉を切り裂かれ、ババメは若者を吐き出して逃げて行った。

後にこの若者の夢枕にババメが現れ、「我は長きに渡り数多の生き物を呑み殺してきた。だがお前に喉を切り裂かれて命が尽きた。殺生の罪滅ぼしとして今後全ての生き物の命を守護しよう」と告げたという。
それから後のこと、落谷で山崩れが起こり、土石流と共に立ち臼のようなババメの背骨が下岡の田圃にゴロゴロと流れて来た。
そして高天山(下岡集落西にある山)の尾根で、真一文字に横たわるババメの白骨死体が見つかったという。

ちなみにババメに呑まれた若者は快復したが、その時に溶かされた頭髪だけは遂に再生しなかったという。
このことから、髪のない頭を「ババメに呑まれたような頭」、歯の抜けた口のことを「ババメ口」と言うようになった。

『丹後の伝説 ふるさとのはなし』「下岡高天山落谷ババメの伝説」
『季刊 民話 1975冬 創刊号』「奥丹後物語 草稿」より


「ババメは恐竜の一種らしい」と説明されていますが、初出と思われる『丹後の伝説』(1973年発行)の注釈には「ババメとは「うわばみ」「大蛇」のこと」と書かれています。
このことから、ババメは恐竜というよりも大蛇だったと考える方が妥当なのかもしれません。
恐竜の妖怪の方がロマンがあって面白いんですけどね。

ちなみに福井県の郷土誌『拾椎雑話』には「(小浜市)堅海の奥山で木樵が蟒蛇に呑まれたけど鎌で内側から切り裂いたので助かった。でも頭は禿げた」という話があります。
ババメ伝承に関係ある話でしょうか?


伝承地:京丹後市網野町下岡


*2022/4/16 加筆修正